【抄録】第4回 ≪総括≫経過と見通しから、学ぶべきこと・備えるべきこと/国際交流の新局面 連続セミナー2022

(公財)かめのり財団では、国際交流の新局面連続セミナー2022 第4回「総括経過と見通しから、学ぶべきこと・備えるべきこと」を、1月10日(火)、オンラインで開催しました。第1回から第3回の進行をご担当いただいた川北 秀人氏(IIHOE[人と組織と地球のための国際研究所]代表者)からお話を伺いました。

 


 

主催者挨拶 公益財団法人かめのり財団 理事・事務局長 西田 浩子

 

昨年12月より「国際交流の新局面 連続セミナー2022」を行い、多文化共生の最前線でご活躍の9名からお話をいただいてきました。毎回ご好評をいただき、このテーマに対する関心の高さをあらためて認識しています。最終回である今回は総括として、今後我々が学ぶべきことや備えるべきことについて、川北秀人さんにお話しいただきます。

 

川北 秀人氏(IIHOE[人と組織と地球のための国際研究所]代表者 兼 ソシオ・マネジメント編集発行人)

 

 

今回の連続セミナーでは、次のテーマでお話を伺ってきました。

第1回 地域における外国人のくらしの「これまで」と「これから」

第2回 地域における外国人の就労の「これまで」と「これから」

第3回 多文化共生を支援する 助成プログラムの「これまで」と「これから」

 

 簡潔にポイントをまとめます。日本に住む外国人の数は今、300万人に達しようとしています。JICA研究所の報告書によると、日本が経済成長(年1.24%)を保つには、2040年には約674万人の外国人材が必要です。欧州は外国人材の受け入れを法制化してきたのに対し、日本はまだガイドラインに留まっています。日本に住む外国人は、「5つの多様化」が進んでいます。彼らは「3つの不平等」の中にあり、技能実習制度がもたらした、日本人の外国人観の変容が影響を与えている可能性も見逃せません。

 

 今後を見通すと、これまでよりも多くの外国人に、より長い期間、日本で活躍してもらうことが必要になります。そのために欠かせないのは、ライフステージ別に多様化するニーズへの対応力強化です。国としての制度設計に加えて、地域においては、個々の市区町村を超えた広域定住圏単位の対応が求められます。介護保険制度を参考に、外国人が抱えるニーズをアセスメントするしくみが必要です。

 

 しくみ化が不可欠であるのには、理由があります。これまで外国人は、生活保護など公的支援の枠外にありました。その結果として生じたのが、コロナ禍における生活福祉資金貸付制度の利用者の多さです。全国343万件の貸付のうち、約30万件を外国人が占めました。大切なのは、ひとりを救う経験を社会のしくみにしていくこと。今後の外国人支援は食糧支援や就労支援に留まるのではなく、彼らが生きがいを持って暮らすための支援が期待されます。ただ、生きがいを持って暮らせる地域づくりが重要なのは、外国人のために限ったことではありません。それゆえ、地域ぐるみの多文化共生への進化が重要です。職場環境を改善するための企業の認証制度も、大切な取り組みです。

 

今回の連続セミナー第1回から第3回のまとめ(川北私案)

 

 このような取り組みは、なぜ求められるのか。国勢調査をもとに確認しましょう。日本人の人口は2015年から2020年の間に全国平均で約2%減少しました。それに対し、外国人は約40%増えています。期間を2010年から2020年に広げると、日本人の減少幅と、外国人の増加幅は拡大します。日本人が減っている都道府県でも、外国人の数は増えていることがわかります。

 

2010年から2020年の日本人増減率を横軸に、外国人増減率を縦軸にして、各都道府県をプロットしたグラフ。球の大きさは2020年時点の外国人数を示す

 

各都道府県における外国人と日本人の増減率(2010〜2020年)。赤い背景の行は日本人の減少率が最も高い8県。青い星印は外国人の増加率が最も高い8県

 

 市区町村単位で見ると、農山漁村部で外国人が大幅に増えていることがわかります。 もうひとつの特徴と言えるのは、大都市の近隣市町村で、製造業や食品加工業が盛んな地域において、増加していることです。2010年から2020年までの外国人の増加率上位100市区町村を合計すると、外国人の増加人数が約1.7万人であるのに対し、日本人は約7.3万人も減少していました。上位200市区町村では外国人の増加が約4万人に対し、日本人は22万人の減少です。ベトナム、中国、フィリピン、インドネシアなどから来た方々が、日本人が急激に減少している自治体で、地域の産業を担う大事な役割を果たしています。

 

2010年から2020年の日本人増減率を横軸、外国人増減率を縦軸にして、各自治体をプロットしたグラフ。日本人が減少している農山漁村部を中心に、外国人が増加している。なお、2010年時点で外国人が0名だった自治体(紫色の枠内)は、グラフに含まれていない

 

外国人の増加率上位100市区町村

 

 過去20年間における日本人の産業別従事者数の推移を見ると、2000年から2020年の20年間に、農業で働く日本人は約40%減少し、漁業では半減しました。製造業や建設業の従事者も減っています。これらの業種を支えているのが、まさに技能実習生です。最も従事者が増えたのは、「分類不能の職業」以外では、医療・福祉でした。

 

 また、日本人の就業者数はこれまでの20年間で約500万人減少しており、今後20年も約500万人の減少が予想されます。その中で各産業の就業人口はどのように変遷するでしょうか。すでに高齢化が進んでいる農林水産業はさらに減っていき、今後も需要が増え続ける医療・福祉の従事者は、どれだけ増えても100万人程度の増加でしょう。

 

産業別就業者数の変化(2000〜2020年)および今後の予測(2020〜2040年)

 

 今後20年間で、85歳以上の人口は8割増えますが、日本人の福祉・医療従事者は1割程度の増加にとどまります。介護ニーズも8割増加すると仮定したとき、介護予防の取り組みをしつつ、不足する7割分の人手をどう補うかを考える必要があります。ロボット活用など現場の生産性向上で5割を補い、残り2割は外国から来る方に補っていただく、といったシナリオを早期に確立し、備える必要があります。

 

 あくまで私的な概算として、外国人材は2040年までに、東京などの都心部で現在より約50万人、農山漁村部で約300万人増えないと、人材需要を満たす供給にはなりません。これを実現するためには、日本人でも外国人でも、働き続けやすい産業・くらし続けやすい地域を増やすことが不可欠です。そうでなければ地域が保たれず、地域が保たれなければ日本が保てません。外国から来る方々が、日本で働き続けたい、長く住んで子や孫を育てたい、と思える環境・関係を作っていけるか。この点が重要だと、9名のご登壇者のお話から再確認しました。

 

質疑応答

 

Q:「選ばれる国になることが必要だ」と言われるようになってきています。しかし、来日する一人ひとりは日本への貢献を目的にはしていません。しくみづくりの一方で、一人ひとりの事情を丁寧に見ている支援の現場も大切であり、この課題に関わる多様な人をつなげる必要があると感じます。

 

川北:今のままでは日本が保てないという認識が広がったのは、就業年齢人口の減少や外国人材の必要性を数字で捉えるようになってからでした。外国人個人への支援のみを考えればよかった時期を超え、しくみ化を考えて初めて、「選ばれる国に」と言われるようになったのです。人口減少の渦中にあって目の前の業務に追われる自治体の方は、今後訪れる危機の程度まで見通せないことが多いでしょう。2040年の状況から逆算し、多文化共生に関する基本計画の骨子を決めるなどの支援が求められると考えています。

 

Q:棚田体験の活動をしています。多文化共生に関わる事例があれば教えてください。

 

川北:岐阜県飛騨市にある団体は、地域と競合しない形で民泊を運営していました。畦道を一列で登校する小学生の様子がフォトジェニックだと、人気が集まったそうです。そのうち、二拠点居住を希望する外国人が出てきました。長期で住む外国人が出てくれば、母語でサービスできる外国人材の需要が生まれます。棚田の価値を評価するのはどういう人かを考えていくと、観光産業や生活支援サービスの創出につながります。

 

Q:国際交流協会が地域の関係団体と連携するヒントを教えてください。

 

川北:多文化共生を中心に置いた枠組みを自分たちで作るより、自殺予防や妊産婦ケアなど課題別のネットワークに加わって、外国人支援の分野を担うのはいかがでしょうか。勉強会など、多様な専門職が個人の立場で参加できる形態で始めていくのが良いと思います。一方、連携の必要性に関して協会内での理解を得るため、自分たちの地域の2040年代の状況を考える機会を設けることも必要です。

 

Q:国や行政が変わらなければ、この課題は解決しないのではないでしょうか。

 

川北:まず、外国人労働者の受け入れに関して、産業界がニーズを持っていることは間違いありません。また日本政府は先日、サプライチェーンの人権デューデリジェンス(※)の取り組みに協力する取り決めを米国と交わしました。日本は、国連人権理事会でも人権デューデリジェンスに取り組むと述べており、国内における人権侵害、すなわち技能実習制度の課題に取り組まざるを得ません。今後、他国を参考にし、人権デューデリジェンスの法制化が必要だと考えています。

 

※人権デューデリジェンス(Human Rights Due Diligence):自組織のサプライチェーンにおける人権侵害のリスクを特定し、予防策を講じること

 

主催者挨拶 公益財団法人かめのり財団 理事・事務局長 西田 浩子

 

 今年度のセミナーは、「国際交流の新局面」というテーマで、国際交流の現在をお伝えしました。ここからわかるのは、外国人の問題として考えるのではなく、地域の持続可能性を考えながらいかに住みやすい環境を作るかが大事だということです。私たちに今、何ができるのか、引き続き考えていきたいと思います。ご参加いただきありがとうございました。

 

抄録執筆:近藤圭子