【抄録】第2回 地域における外国人の就労の 「これまで」と「これから」 /国際交流の新局面 連続セミナー2022

(公財)かめのり財団では、国際交流の新局面連続セミナー2022 第2回「地域における外国人の就労の『これまで』と『これから』」を、12月20日(火)、オンラインで開催しました。カブレホス セサル氏(ランゲージワン株式会社多文化共生推進ディレクター)、宍戸 健一氏(JP-MIRAIサービス 理事)、堀 永乃氏(一般社団法人グローバル人財サポート浜松 代表理事)を迎え、川北 秀人氏(IIHOE[人と組織と地球のための国際研究所]代表者)の進行で、お話を伺いました。

 


 

主催者挨拶 公益財団法人かめのり財団 理事・事務局長 西田 浩子

 

 かめのり財団では国内の外国人の現状を知るなかで多文化共生の大切さを認識し、今回のセミナーを企画しました。第2回は就労について伺います。この機会に今後の多文化共生について、私どもとともに考えていただけたらと思っています。

 

カブレホス セサル氏(ランゲージワン株式会社 多文化共生推進ディレクター)

 

 

 私はペルー出身で1990年に来日し、現在、遠隔通訳の会社で多文化共生推進ディレクターを担っています。今日は会社の説明ではなく外国人の就労に関して、厚労省が発表している労働災害の発生状況と発生原因の分析データを基にお話します。

 

 外国人労働者は2016年から2020年までの5年間で64万人増加し、172万人となりました。在留資格別で最も増加したのは技能実習生で、主に建築業、製造業、小売業で働いています。外国人を雇用する事業所も増えていますが、その6割が従業員数30人未満の小規模事業所です。

 

 外国人労働者の増加とともに、外国人労働者が休業4日以上の死傷災害に遭う例が増加しています。業種別死傷者数は製造業、建設業で65%以上を占めます。死傷災害の内訳を見ると、日本人と比較して墜落・転倒の割合が少なく、はさまれ・巻き込まれ、切れ・こすれが多いことがわかります。

 

外国人労働者数の増加に伴い、外国人労働者の労働災害も増加している
 
死傷災害の種類では、外国人労働者のはさまれ・巻き込まれなどの比率が高い

 

 墜落・転倒は、高齢になるにつれ増加する事故です。一方、外国人に多いはさまれ・巻き込まれは、年齢よりも経験期間による影響が大きく、外国人労働者の経験不足から生じる事故が多いと言えます。

 

 安全衛生管理には、日本語でのコミュニケーションが欠かせません。ところが出入国在留管理庁による調査では、「日本人と同程度に会話できる」と答えた人は、永住者では4割を占めるものの、技能実習や留学では9%前後と低くなっています。別の調査では、日本語の学習方法について「自分一人でインターネットやアプリを使って学んでいる」と答えた人が技能実習では73%に上り、日本語教室に通わず独学で学んでいる様子がうかがえます。

 

 外国人の労働災害を防止するための対策はシンプルです。日本人には外国人従業員に対し、やさしい日本語で接してほしいと思います。そのためには、やさしい日本語とは何かを学ぶ必要があります。一方、外国人は日本語を覚える必要があります。これにより外国人労働者の労働災害は減っていくのではないでしょうか。

 

外国人労働災害を減らすには、外国人を雇用する企業の従業員がやさしい日本語で外国人従業員に接すること、日本で働く外国人が日本語を覚えることの両方が必要

 

 

宍戸 健一氏(JPMIRAIサービス 理事/独立行政法人国際協力機構 理事長特別補佐)

 

 

 JICA研究所が2022年3月に発表した報告書では、日本の経済成長(年1.24%)を保つためには2040年には現在の4倍の約674万人の外国人材が必要になると予想しています。他の先進国も人手不足が課題となる中、日本が魅力ある国として選ばれるようにしなければなりません。

 

 1990年に日系人の受け入れが拡大されてから32年が経ち、当時来日した方の孫が就労する世代になってきました。しかし日本語ができず差別を受ける、良い仕事に就けないなどの状況が起きており、日本語教育体制の不十分さが社会統合の困難につながったのではないかという議論もあります。

 

 「責任ある外国人労働者受け入れプラットフォーム(JP-MIRAI)」は、外国人労働者をめぐる様々な課題を踏まえ、2020年に設立されました。企業、NGO、国際交流協会など組織を越えて課題解決に向けた議論をし、選ばれる日本を目指して環境改善に取り組んでいます。

 

JP-MIRAIの会員は企業・団体・個人など581(2022年12月現在)

 

JP-MIRAIの3本柱は、①外国人労働者との情報共有・共助、②「ビジネスと人権」における協働、③マルチステークホルダーによる学び合いと内外への発信

 

 来日前の人材に対する多言語ポータルサイトの普及を目指しているほか、2023年からは来日した外国人労働者が自身の置かれた状況を正しく把握するためのセルフチェックシートを導入します。回答から人権侵害が懸念される場合は相談窓口等につなぐ仕組みで、個人情報と切り離し統計データとしても活用します。また、調査で「日本人の友達がいないのが残念」と答える外国人が多かったことを踏まえ、交流サイトも作りました。

 

 認証制度の導入に向けた研究も進めています。外国人労働者の人権侵害はサプライチェーンの末端である中小企業や農家で発生することが多いものの、完成品メーカーやブランドなどの大手企業による監査は行き届いていません。中小企業でも取得しやすい仕組みの認証制度を設ける予定です。

 

 日本が選ばれる国になるためには、人権問題が外国人に特に多いことがないようにしなければなりません。引き続き皆さんと議論し、連携していきたいと考えています。

 

JP-MIRAI認証制度(仮称)の構築に向けて研究中。認証制度によって、外国人労働者の雇用に適正に取り組む企業や監理団体、登録支援機関などのインセンティブを高める

 

 

堀 永乃氏(一般社団法人グローバル人財サポート浜松 代表理事)

 

 

 日本ではものづくりの新たなステージが始まる度に、外国人労働者が増加します。しかし労働力の調整弁として使われており、浜松市でリーマンショック時に雇用が多く奪われたのは日系人の方々でした。その方々が手に職をつけて働ける環境を作ろうと、定住外国人の介護人材育成を始めたのが「グローバル人財サポート浜松」の設立のきっかけです。定住外国人は高齢化が進んでいます。しかし言葉の壁から在宅介護は難しく、通訳のいる病院以外の死に場所を選ぶことができません。自分らしく「生」を全うできないという無機質さに心を痛め、介護人材の育成に励みました。

 

外国人財の育成に取り組むステークホルダー、そして外国人財と受入社会をつなぐのがグローバル人財サポート浜松の役割。

 

 コロナ禍においては、貯まったノウハウをもとにブラジル人学校の高校生を対象に就労支援に取り組みました。ところがどんなに日本語教育やキャリア教育を行っても、「日本語ができなくても派遣で働けます」と本人に言われてしまいます。負のスパイラルが続く状況をいかに改善するかを考えるうちに、外国人材を雇用している企業とともに人を育てる必要性に気づきました。

 

 解決の糸口は送り出し国での教育にあると考え、フィリピンで日本語教育を始めました。日系人の多いダバオ市(ミンダナオ島)にある大学において、業界別のプログラムをオンラインで行っています。大切なのは「なぜ日本で働くのか」「将来どんなキャリアプランを作るのか」といったマインドを育てていくことです。一方、企業側が適正な受け入れ体制を知らないことも課題だと考えました。当団体は今年、登録支援機関になりましたので、適正な受け入れを体現していきます。

 

 外国人労働者の適正な受け入れには、4つの壁があります。教育、外国人雇用に関する専門的な知識を有する人材の不足、モラル、情報の壁です。これらを突破するためには「人材育成」「評価による可視化」の両輪が必要であることから、監査人育成と優良事業所認定の仕組みを構築し、普及に向けて活動しています。私たちが行うだけでなく、全国の中間支援機関に同様の取り組みが広がっていくといいと考えています。

 

外国人労働者の適正な受け入れを阻害する4つの壁

 

初級監査人による職場内環境の自己評価を踏まえ、企業は改善行動計画を策定。上級監査人による監査、認定委員会による評価を経て、優良企業認定を取得できる

 

質疑応答

 

 

川北:外国人の労働災害を減らすためには、やさしい日本語以外にも、業種別の特徴を踏まえた支援が必要ではないでしょうか。

 

セサル:それでも一番の問題はコミュニケーションです。日本人が相手に伝わる話し方をしていないことや、外国人がきちんと理解しようと努力していないことが多く見られます。やさしい日本語をまず学び、職場で使うことが大切です。一方、外国人自身が向上心を持てるよう、ロールモデルを業種別に作ることはいいと思います。

 

川北:認証事業の拡大に期待しています。業種や地域を絞った啓発はお考えですか。

 

宍戸:大企業のサプライチェーン管理で対応できるのは多くの場合2次サプライヤーが限界で、3次以降の小規模企業の改善に認証制度が有効だという意見があり検討を開始しました。また、大企業がサプライヤーに人権遵守状況の情報提供を求めても理解を得にくい現状もあり、認証を推奨する方が抵抗が少ないと思われます。現状では、人権問題に関心が高く裾野も大きいグローバル先進企業への啓発を進めるのが良いと考えています。ただし、認証を取得するのは優良な雇用主であることから、現実に起きている問題解決のためには行政による取締り強化も欠かせません。

 

川北:優良事業者認定を取得した企業に対し改善を促すため、どのような支援をお考えですか。

 

堀:最も踏み込んだ改善は、日本人に対して人材育成プランがあるように、在留資格に応じたキャリアアップと教育のスキームを制度化してもらうことだと考えています。大事なのは、企業トップが外国人材の労働環境改善を人権問題だと認識し、方針を社内に伝えることです。「人の違いへの配慮は当たり前のこと」と企業にお伝えしていくことが、改善を促す鍵になるのではないでしょうか。

 

最後に、堀氏は「まやかしの桃源郷ではなく、働きやすい制度がある国として世界の若者から選ばれるよう、これからの社会を皆さんと作っていきたい」、セサル氏は「私が来日した32年前、今日のセミナーのような場はなかった。多文化共生に関心を持つ方が増えていくとそのうち必ず良い答えが出ると信じている」、宍戸氏は「儲け優先が許される社会を改めないといけない。多文化共生はムーブメントになれば必ず実現する」と話しました。

 

抄録執筆:近藤圭子