かめのりフォーラム2024 ゲストスピーチ『新しい教育 ~言葉の違う二つの世代を繋ぐ~』 産業能率大学 経営学部 高原純一教授&高原ゼミ

 2024年1月12日に行った「かめのりフォーラム」では、産業能率大学 経営学部教授 高原純一先生にご講演いただきました。講演の様子をダイジェストでご紹介します。

 


 

産業能率大学 経営学部教授 高原純一先生

 

 「経営」というと、P・F・ドラッカーを思い浮かべる方も多いでしょう。ドラッカーは次のように言っています。

 「企業とは何かを決めるのは、顧客である。企業の目的は顧客の創造である。企業が持つ二つだけの機能。それがマーケティングとイノベーションである。マーケティングとイノベーションだけが企業に成果をもたらす」

 

 私はマーケティングとイノベーションを大学で学生に講義し、ゼミナールでともに学んでいます。「ゼミナール」とは、ラテン語で「種」を表す言葉です。ゼミナールにいる間は、種のままで良く、社会に出てから、花を咲かせれば良いのです。

 

 フランスの哲学者であるロラン・バルトは、ゼミナールを「学生も教授も宙ぶらりんになる場所」と言いました。私たちはゼミナールで、「生きるとは」を学んでいます。企業とは人間の集合体です。我々は企業の生き方を見つめることで、自らの生き方を考えているのだと思います。

 

 先ほどのドラッカーの言葉で、「企業」を「自分」に置き換えてみましょう。

 「自分とは何かを決めるのはお相手様である。自分の目的は、縁故の創造である。自分が持つ二つだけの機能。それがマーケティングとイノベーションである。マーケティングとイノベーションだけが明日をもたらす」

 

 今日のテーマは「新しい教育~ことばの違う2つの世代をつなぐ~」です。どのような教育を行っているのか、ここからは、2名のゼミ生とともにお話ししたいと思います。

 

奥瀬穂乃花さん(進行:以下、奥瀬):私たちは「Z世代」や「若者」としてまとめて捉えられがちだと感じます。今日は、世代をつなぐ教育について話していきますが、高原先生は、ゼミでも世代ごとに違いがあると思いますか?

 

高原純一先生(以下、高原):世代の違い以上に、一人ひとりに違いがあって、私はそのことに勇気づけられていますよ。

 

奥瀬:個人の違いが表れるのは、「相手の意見を聞いたら、否定ではなく必ず肯定から話そう」という先生の教えも影響していると思います。

 

前田恒輝さん(以下、前田):意見を言うときは緊張するし、言いにくい内容のこともあります。でも、肯定してもらえるとわかっているから、全員が主体性をもって意見を出せるんです。初めは、「いいね」ばかり言っていたら話がまとまらないのでは、と思っていました。けれどやってみると、自分と相手の意見が合体したり、連鎖的に発想が生まれたりする。全員が自分の意見を遠慮なく表してまとめることで、わだかまりなく同じ方向を向けるのだと思います。

 

奥瀬:肯定から入る姿勢は身についた感じがします。ゼミの取り組みとして、マーケティングを学生同士で教える「超学ぶ」も特徴的です。3年生が2年生にマーケティングを伝えています。

 

前田:授業を作るのは大変そうだと思っていたのですが、インプットとアウトプットの連鎖を引き起こして、アイデア脳が刺激されます。記憶に残る授業です。

 

高原:学生が学生に教える実験的な取り組みです。マーケティングを誰にでも教えられるようになったら、社会に出たときに、会社でマーケティングの先生になれます。人に教えることによって、自分が教えられるんですね。

 

奥瀬:ゼミではいろんなプロジェクトをしていて忙しいのですが、その楽しみ方も、先輩から教えてもらったと思います。その一つ「本と出版」プロジェクトで行ったイベント「喫茶 栞」でも、インプットとアウトプットの両方を経験できました。

 

前田:東急渋谷スクランブルスクエアさんとの連携では、コロナ禍を経て廃棄されるアクリルパーテーションを「サエギル」ものから「ツナガル」ものへとよみがえらせるイベントを行いました。

 

高原:白金商店街での母の日イベントは、共働きで忙しい女性が抱える課題を解決するプロジェクトでした。プロジェクトは体験的な学びです。コンセプトから企画し、世の中の課題が価値に代わっていく瞬間を、ゼミのみんなは体験している。みんなが社会に出て花開くとき、恩恵をこうむるのは日本であり、地球であるのではないかと感じます。

 

奥瀬:ゼミのコンセプト「おもしろいをデザインする」が、私にとって身近になってきたと感じています。どうですか?

 

前田:僕はちょっとまだ満足していないかな(笑)。これまでは企業の方など外部からチャンスをもらい、先輩や先生の力を借りて、「おもしろいをデザイン」していたので。自分から主体的にデザインできていないですから。社会に出て、世界を面白く変えられたとき、初めて満足するのではないかなと思います。

 

高原:私はみんな、今のままでいいと思いますよ、本当に。みんなが変わらずにやっていくなかで、社会が変わると思う。小さなチェンジが大きなチェンジを生む。私は、学生の皆さんからそう教わりました。

 

執筆:近藤圭子