【抄録】第2回 多文化共生時代の地域福祉・外国人相談対応への配慮事項/日本における外国人と福祉のこれまでとこれから 連続セミナー

(公財)かめのり財団では、「日本における外国人と福祉のこれまでとこれから 連続セミナー」の第2回「多文化共生時代の地域福祉・外国人相談対応への配慮事項」を、4月19日(水)、オンラインで開催しました。新居 みどり氏(国際活動市民中心)、矢冨 明徳氏(佐賀県国際交流協会)、山野上 隆史氏(とよなか国際交流協会)にお話しいただいたのち、田村太郎氏(ダイバーシティ研究所/多文化共生マネージャー全国協議会)と、進行役の川北 秀人氏(IIHOE[人と組織と地球のための国際研究所])を交えた座談会を行いました。

 


 

主催者挨拶 公益財団法人かめのり財団 理事長 木村 晋介

 

 第1回は、外国人の支援実務者の方々を対象に、社会保障制度の内容や利用する上での壁などについて詳細に紹介されました。支援者の皆さんは工夫をして、障害を乗り越え、相談・支援に当たっています。今回は、主に社会福祉の担当者の方々を対象として、多文化共生時代の地域福祉と外国人対応の配慮事項について、ご紹介いただきます。

 

解説講義 新居 みどり氏(特定非営利活動法人国際活動市民中心(CINGA)コーディネーター)

 

 CINGAは、外国人相談センターの受託や通訳派遣のコーディネート、専門家による相談会等を行っている団体です。外国人相談は、地域日本語教育と表裏一体にあると考えています。外国人が困ったときに初めに相談するのは、行政等の相談窓口ではなく、地域日本語教育の担い手の方たちなど、信頼できる方だからです。日本語教室で会う日本人に相談することも多いでしょう。そのため外国人相談と地域日本語教育の両方を大切にしています。

 

CINGAでは地域日本語教育を中心に起き、相談事業等を行っている

 

 知っていただきたい9つの「基礎知識」があります。基礎知識①は「3つの壁」です。日本に住む外国人には、法律の壁、ことばの壁、こころの壁が存在します。基礎知識②は「在留資格」です。在留資格には29種類あり、生活の様々な面に影響します。就労の可否や奨学金の貸付可否も、在留資格によるのです。在留資格そのものが複雑であると同時に、法律や運用が次々と変わっていきます。そのため「前はこうだったから」と判断するのではなく、行政書士や弁護士に確認することが欠かせません。

 

日本に住む外国人には、法律の壁、ことばの壁、こころの壁がある

 

 基礎知識③は、「外国人相談の分類」です。外国人相談センターが受ける相談内容は、法律、教育、行政、心の4つの領域に分けることができます。このうち、7割は法律の相談です。例えば子どもの不登校という教育の相談だったとしても、相談センターは必ず在留資格を聞きます。あらゆる相談に在留資格が関係しているため、結果として法律の相談が多くなっています。相談者の中には、異国で暮らすうちに心の状態を崩している方が多く見られ、カウンセリングや病院につなぐべき方も含まれます。

 

外国人相談の分類。法律の相談が7割を占める

 

 基礎知識④として、「地域の外国人相談センター」はすべての都道府県に設置されています。福祉関係の方も、外国人の方に対応するときに困ったことがあれば、活用してください。専門の相談員が話を聞いてくれます。また14言語や21言語等、多言語対応がされています。

 

 基礎知識⑤として、「一元的相談窓口の現況」を挙げました。CINGAのホームページでは「全国100か所ワンストップセンター相談センター訪問キャラバン」として全国の相談窓口の一覧を掲載しています。

 

一元的相談窓口はすべての都道府県にある。設置数や相談件数は、地域により様々

 

 基礎知識⑥は、「多言語支援」です。窓口に外国の方が来たとき、英語力や通訳が必要だと焦る必要はありません。まずはやさしい日本語で話しかけてみてください。コミュニケーションが難しければ、機械通訳が活用できます。それでも難しいときは、自治体や県の相談センターが設置しているオンライン通訳を利用します。人が通訳に入る必要がある場合は、コミュニティ通訳の派遣を依頼します。様々な方法があることを知ってもらいたいと思います。

 

初めはやさしい日本語で話しかけ、必要に応じてコミュニケーション方法を変えていく

 

 基礎知識⑦は、「日本人がやさしい日本語で話しかけること、外国人住民が日本語を勉強すること」、両方のアプローチが必要である点です。基礎知識⑧は「地域日本語教育」です。2019年に日本語教育推進に関する法律ができ、都道府県単位で日本語教育の体制づくりが進められています。就労のように中長期的な視野で支援するとき、言語が課題となる場合がありますので、日本語教育の制度が整ってきたことを知っていただけると良いと思います。

 

日本語教育推進に関する法律を踏まえ、地域日本語教育の体制づくりが進んでいる

 

 また、地域の日本語教室は日本語を学ぶ場であると同時に、外国人住民の居場所でもあります。地域での生活情報が提供されますし、小さな相談はその場で解決できます。外国人にとって社会参加の入り口です。皆さんの町にもきっとありますので、調べてみてください。

 

 基礎知識⑨は「やさしい日本語」です。やさしい日本語を学んだ日本人は、外国人との向き合い方の意識が変わると感じています。やさしい日本語のガイドラインもありますので、参考にしてください。

 

 外国人住民の支援において、必要なときは在留資格を聞いてみてください。その上で外国人相談窓口に電話して連携しましょう。先ほども述べたように、「外国人=外国語」と構えないでください。まずはやさしい日本語で話しかけ、難しければ機械通訳やオンライン通訳、コミュニティ通訳と、進めていきましょう。デジタル技術の活用もポイントです。タブレットがあれば、書類を機械翻訳できます。現場に用意がなければ、ご自身のスマートフォンを使ってもよいでしょう。加えて、対人援助職に対し、外国人対応の基礎研修を行うことも大切です。

 

 CINGAでは、週3日、外国人相談に対応する方に向けた相談窓口を設けています。社会福祉士と行政書士の両方の資格を持つスタッフが対応していますので、国際交流協会や社会福祉協議会の皆さんにご活用いただければと思います。

 

外国人住民対応のためのコツ

 

事例紹介 矢冨 明徳氏(公益財団法人佐賀県国際交流協会 企画交流課長)

 

 2023年1月1日現在、佐賀県では7,780人の外国人が暮らしています。佐賀県としては過去最高の人数です。国籍は、ベトナム、ネパール、中国、フィリピンの順に多くなっています。特徴的なのが、技能実習、特定技能、留学の方が多く、3つの在留資格で全体の半数を占めることです。年代としては20代が多いものの、赤ちゃんから高齢の方まで幅広く住んでいます。

 

佐賀で暮らす外国人は増加している

 

 佐賀県では、2019年に総合相談窓口ができるまで専任の相談員がおらず、国際結婚した職員等の個人の経験から対応するような状況でした。2019年にできた総合相談窓口「さが多文化共生センター」では、専任相談員2名を配置し、また、英語、韓国語、中国語、ベトナム語の対面通訳と21言語の電話通訳での対応が可能になりました。

 

 相談窓口の設置を振り返ると、相談員の人数や体制、研修、相談対応の方針等、わからないことばかりでした。最近、社会福祉士の資格を取得した相談員が、成年後見制度をテーマに選定し、職員研修を実施しましたが、外国人に関わる重要な福祉のトピックがあることを、私たち自身がわかっていなかったと気づかされました。相談窓口の運営に関し、相談員の方の能力や知識、熱意に頼りきってしまっていたと思います。

 

2019年にさが多文化共生センターを設置し、相談体制を整備

 

 2022年10月、当団体と県社会福祉協議会が連携協定を結びました。社会福祉協議会の災害担当者向け研修で外国人対応の話をするなど、連携を深めています。また、社会福祉士で外国人相談の専門家の方と外国人相談に関するアドバイザー契約を結び、体制強化に努めています。

 

 これまでの社会の外国人相談では、行政や福祉、医療等との連携が「1対1」で行われてきました。ただ、在留資格のような外国人ならではの課題はあるものの、誰もが困りごとを抱えるという点で外国人も日本人も多くは同じです。そこで、従来のケース会議や重層的支援に外国人相談窓口も関わることで、外国人が抱える課題にも対応できると良いのではないでしょうか。ぜひ、行政や福祉の方には、各分野の初任者研修等で外国人に関する内容を加えていただければと思います。

 

外国人相談は各分野が連携して行う体制が望ましい

 

事例紹介 山野上 隆史氏(公益財団法人とよなか国際交流協会 常務理事兼事務局長)

 

 豊中市は人口約40万人、外国人人口は約6800人の都市です。とよなか国際交流協会では約30の事業を、400名のボランティアとともに運営しています。にほんご交流や多言語相談、教育活動、外国人のライフステージに沿った多様な支援を行っていますが、まだまだ課題があると考えています。

 

 小学校区単位で外国人の数をマッピングすると、国際交流センターに足を運びづらい方がいることが見えてきました。経済的に困窮し、往復300円程度であってもセンターまでの交通費が厳しい状況の方もいらっしゃいます。多様な活動をしているといっても、必要な方に届けることができているでしょうか。一方、小学校区単位でマッピングしたことで、外国人住民の存在を地域の方がイメージしやすくなりました。社会福祉協議会の方は地域の方に対して「6,800人は、市内の後期高齢者の数と同じです」と伝えるのですが、相手に合わせて外国人住民の存在が見えてくる、実感できるような伝え方が大事だなと思います。

 

豊中市で暮らす外国人の数を、小学校区別にマッピング。エリアごとの特徴が見えてくる

 

 国際交流協会と社会福祉協議会のつながりが決定的に濃くなったのは、新型コロナの拡大後です。生活福祉資金の手続きにおいて、国際交流協会でも多言語対応の協力をしました。また「生活なんでも相談会」として、社会福祉協議会や市役所の関係部署が参加するワンストップ相談会がありました。初回は全35件の相談のうち半分以上が外国人からの相談で、市役所や社会福祉協議会の方に、ニーズの存在が伝わる機会になったと思います。

 

 相談対応と同時に、外国人と地域の方の接点づくりにも取り組んでいます。地域の防災訓練のバケツリレーに技能実習生が参加したとき、地域住民は、最初はどう接していいのかわからないといった感じでした。ですが、終わった頃には「速いな!力があるな!」と感嘆する声が上がっていました。

 

国際交流協会と社会福祉協議会は以前からつながりが。コロナ禍以降、さらに関係が深まっている

 

 今後は、地域から国際交流協会に相談事をつないでもらえる関係を作っていきます。また、受け皿としての地域づくりも重要です。外国人が窓口に相談できたとしても、実際の生活は住んでいる地域にあるからです。外国人の困りごとは社会保障制度でカバーできない場合があり、外国人から日本社会への期待は高くないと感じます。資源開発や制度改善をいかに進めていくかも考えていきたいと思います。

 

地域と国際交流協会がつながる具体的な経験を重ね、「つなぎ先」として認識してもらえるようにする

 

座談・質疑応答

 

 

川北:外国人相談窓口への相談件数や内容は、地域ごとに異なるのではないかと想定されます。違いを分析し、地域の相談対応力向上にフィードバックする取り組みはあるのでしょうか。

 

新居:相談件数は、都道府県によってカウント方法が異なるため、比較できません。相談窓口の質は、ばらつきがあるのが現状です。相談窓口を評価する仕組みがないことが、最も課題だと考えています。CINGAは5ヶ所の相談センターを受託しており、相談内容を総合的に見ることで近い将来の予測につなげています。シンクタンク的な機能を果たし、次の一歩を示すことは重要だと考えています。

 

川北:2010年以降で言えば、外国人が増えているのは、市部よりも町村部です。独自の相談窓口を設けられない自治体もあります。県の国際交流協会として、町村部支援の工夫はありますか。

 

矢冨:佐賀の国際交流協会は県と佐賀市にありますが、その他の市町村にはありません。そのため各自治体の職員と接点を持ち、必要なときに電話をもらえる関係になることが重要だと考えています。さが多文化共生センター(総合相談窓口)を創設した時は、各地での出張相談会を視野に入れていました。これまでは十分にできなかったため、今後取り組んでいきたいと考えています。

 

川北:「受け皿としての地域」 を育てることは、地域に委ねるだけでは難しいですね。可視化された課題をどのように地域住民とともに解決していきますか。

 

山野上:いくつかのステップが必要です。まずは多文化共生の必要性を地域住民に知ってもらうことから始まります。社会福祉協議会が設置する校区や地域ごとの会議で話をするなど、関心を広げていきたいと考えています。また、市民活動を育成する市の事業に対し、外国人支援の観点を取り入れるよう働きかけています。地域が初めから課題解決に取り組むのは難しいとしても、「挨拶をするようになった」というだけでも大きな一歩です。

 

田村 太郎氏(一般財団法人ダイバーシティ研究所 代表理事):2018年の閣議決定を受け国の施策が次々に動いています。2019年度から「一元的相談窓口」への交付金がスタートし、2021年度には向こう5年間の国の政策をまとめた「外国人との共生社会実現のためのロードマップ」を策定。2022年度は入管庁で「総合的な支援をコーディネートする人材の役割等に関する検討会」を行い、2023年度は育成に向けた検討を行う予定です。このように地域で共生社会をめざす素地は整ってきましたが、仕組みはニーズに基づいて作らなければいけません。外国人からの相談窓口は相談に答えるだけでなく、仕組みを提言するうえでも重要です。相談窓口のこれまでとこれからをしっかり議論し、外国人が暮らしやすい地域を作っていく段階を迎えています。

 

最後に、新居氏は「外国人からの相談に向き合うとき、二者よりも三者が良い。相談窓口も活用しながら、一緒に考える人を増やしていってほしい」、矢冨氏は「今までは外国人の困りごとに所属組織や地域が対応していて、総合相談窓口とつながらない例も多かったのだと思う。これからさらに各組織や地域とも連携していきたい」、山野上氏は「関係各所と連携しても、本人が望むような選択肢を提示できない場合もある。それでも、全く何の選択肢も示せないことはないし、その状況での本人の判断に寄り添っていくことはできる。そのことが大切」、田村氏は「情報やスキルを駆使して”できない理由”を挙げるのなら相談窓口は要らない。共感して受け止め、どんな解決策があるのかともに考える姿勢を持つことが大事」と話しました。

 

抄録執筆:近藤圭子