【抄録】第3回 働き続けやすさ・くらし続けやすさを確立するために、求められる取り組み・施策/多文化共生の転換期 連続セミナー2023

(公財)かめのり財団は、「多文化共生の転換期 連続セミナー」の第3回「働き続けやすさ・くらし続けやすさを確立するために、求められる取り組み・施策」を、2023年12月11日(月)、オンラインで開催しました。新居 みどり氏(国際活動市民中心(CINGA)コーディネーター)、土井 佳彦氏(多文化共生リソースセンター東海 代表理事)を迎え、川北 秀人氏(IIHOE[人と組織と地球のための国際研究所] 代表)の進行で、お話を伺いました。

 


主催者挨拶 公益財団法人かめのり財団 常務理事 西田 浩子

 

 本連続セミナーでは、技能実習制度の廃止と特定技能制度の適正化など転換期にある多文化共生について、議論しています。第1回・第2回では、多文化共生にかかわる制度、外国人労働者への企業の支援、日本語教育施策についてお話しいただきました。本日も活発な議論の場にできればと思います。

 

進行 川北 秀人氏(IIHOE[人と組織と地球のための国際研究所] 代表者 兼 ソシオ・マネジメント編集発行人)

 

 日本の在留外国人数は、バブル経済期の人手不足で日系人の受け入れが始まった1990年代初頭に比べて3倍にまで増加しています。国の人口推計は、2060年まで外国人が「毎年16万人ずつ増える」という楽観的な見通しですが、円安や経済の停滞が続く中、それは可能でしょうか。日本が選ばれる国になるためには、また外国人が長く働き続ける国に変わるためには、今いる外国人の方々の働き続けやすさやくらし続けやすさの実現が欠かせません。今回は、民間で行われてきた取り組みのこれまでとこれからを聞いていきます。

 

講義① 新居 みどり氏(国際活動市民中心(CINGA)コーディネーター)

 

 

 日本各地での市民活動は、これまで長きにわたり外国人の支援を担ってきました。国の多文化共生政策は、大部分において市民の協力を求めており、外国人が地域でくらし続けるためには、地域でともにくらす私たちが一緒に活動し続けることが必要です。

 

 しかしアジア各国、特に韓国の研究者から、それぞれの国で多文化共生が制度として確立するなかで、長年続けられてきた市民活動が硬直化し、領域によってはほとんど止まってしまったと聞きます。日本でも国が多文化共生政策を進めるなかで、同様のことが起こらないとも限りません。

 

地域日本語教育、外国人相談、多言語支援のいずれにもボランタリーな活動がかかわっている

 

 日本の多文化共生政策の大きな柱として、地域日本語教育、外国人相談、多言語支援があります。地域日本語教育はこれまで、ボランタリーな活動が中心となって行われてきました。一方で日本語教育の政策が本格的に始まり、国際交流協会等が専門家等による日本語教育を行っています。日本語学校や企業による地域日本語教育もあります。今後、市民のボランタリーな活動はどのような役割を担っていくのでしょうか。

 

 外国人相談は、ボランタリーな活動があまり強くなかった領域です。国の政策で外国人相談が動き始め、全国200か所を超える相談センターや窓口ができました。今まで外国人の困りごとを引き受けてきた市民の伴走者は、専門職につないで対応できるようになっています。一方で、友達や知り合いの関係性が不要になったわけではありません。また、企業もサプライチェーンにかかわる外国人労働者のための相談対応を始めています。その中で市民活動はどのように続けていくのがよいでしょうか。

 

 多言語支援では、行政によって企業サービスを活用したオンライン通訳などが提供されるようになりました。一方、対面でのコミュニティ通訳が必要な場面はあるため、ボランタリーな活動も続いています。

 

 以上のように3つの分野のいずれにも、市民活動の関わりがあります。これからの市民活動は、何を求められているのかを踏まえて活動していくことが必要です。

 

CINGAの2023年度事業計画。受託事業で収益を上げている

 

 CINGAは、受託事業と自主事業の2つの柱で活動しています。外国人相談事業は、外国人相談センター等の受託によって収益を上げています。少数言語通訳者の派遣事業や地域日本語教育の事業は、地域での課題や市民からの需要があるので、自主事業として行っています。自主事業は、受託事業での収益があるために継続的な取り組みができています。受託事業が万一なくなったとき、切実なニーズはあっても費用のかかる支援活動を続けられるのか、課題となっています。

 

 CINGAの組織にも課題があります。外国人の職員も多いですが、共通語は日本語で、日本語力の強い人の意見が通りやすい現状があります。また、CINGAでは水平方向の組織を志向していますが、コーディネーターを担う17名のうち、外国ルーツの人は2名のみです。私たちも悩みながら活動を続けています。

 

CINGAは約70名の職員のうち、日本人と外国人の比率は1:3、男女比は1:9。受託事業が1年ごとの契約のため、職員の契約形態も1年ごととなっている

 

 多文化共生をしくみとして実践するうえでも、市民活動である私たちが働き続けるうえでも、共通して必要なのは次の4つの視点だと考えています。

 

 まず、人として生きる力(働く力)をつけていくことです。外国人の方々に教育が必要であると同時に、市民活動組織も自分たちのできることできないことをしっかりと認識し、学び続けないといけません。また、外国人も含め人が働き続けるためには、情報をひらき、人や社会に対して予防的にも提供することが大事ですが、NPOにとっても同様です。加えて、小さな困りごとの時点で相談し合って解決できる関係性、困ったことがときにしっかりと対応してもらえる安心安全のセーフティネットの存在も重要です。

 

外国人が、そしてNPOで働く人たちが自律的に「働き続ける」「くらし続ける」には、4つの視点が必要

 

講義② 土井 佳彦氏(多文化共生リソースセンター東海 代表理事)

 

 

 多文化共生リソースセンター東海は、東海地域を中心に活動する多文化共生分野の中間支援組織です。2008年の設立当時、私自身が日本語教師としてボランティアをする中で様々な困りごとに直面していたので、多文化共生の活動を助ける側に回ろうという思いで参加しました。

 

 当団体は中間支援のため、日本語教育や教育、福祉といった活動分野を絞っていません。分野を絞ると、異なる分野の活動団体が相談しづらくなるからです。また活動現場を持つと他団体の手伝いをする余裕がなくなるので、あえて一歩離れて、支援者のお手伝いをしてきました。設立以来15年間、民間、行政、企業、学校等約300団体から、様々なご依頼をいただいています。

 

多文化共生リソースセンター東海の2023年度事業計画。詳細はウェブサイトで公開中。

 

 年度によって事業内容は異なりますが、2023年度は1つの受託事業、2つの助成金事業、複数の自主事業を行っています。自主事業はほとんど収益がないどころか、ときには持ち出しもありますが、必要性が高いことには取り組んでいます。

 

多文化共生分野は女性や外国人が多く活躍している。多文化共生リソースセンター東海ではコーディネーターの個人の力量に頼っていることが課題

 

 現在、当団体の職員は日本語が母語の者で構成されています。事業において、通訳や翻訳が必要な時は、外部の方に有償でお願いすることとしています。事業ごとにコーディネーターがいますが、個人の力量に頼っている面は否めず、しくみ化をできていない点が課題です。

 

 これまで私が活動を続けてこられたのは、まだ設立当初からの目標を達成できていないからです。もともと日本語教師である私は、国が責任をもって全国に日本語教育を展開し、日本語教師が本業として活動できるしくみを作りたいと思ってきました。形ができつつある今、実行に向けたお手伝いを続けたいと考えています。その都度目標を設定し、進捗を確認しながら活動を続けることがモチベーションです。

 

市民活動を行う者が「働き続ける」「くらし続ける」ために、目標設定と進捗確認、仲間や家族の存在、「くらし」への視点を持つことが大切

 

質疑応答

 

 

川北:各地に国際交流協会が生まれた頃と現在では状況が異なり、支援者の財源構成や中期計画の見直しが必要です。今、CINGAではどのような教育やOJTをしていますか。

 

新居:外国人相談には専門性が必要ですので、養成のしくみを設けています。また、富山県や長崎県等からご依頼いただき、コーディネーター養成のOJTプログラムを各地で実施しています。コーディネーターの養成ツールがすでにしくみとなって存在するので、各地の国際交流協会にはツールを活用し、職業としてのコーディネーターをしっかりと育ててほしいと思います。

 

川北:中間支援においては、2歩先の視野を持って1.5歩先の支援プログラムを作ることが大事です。これまでの分析とこれからの予測を教えてください。

 

土井:総務省が2006年に多文化共生推進プランを設けましたが、一部の外国人集住地域を除いては、多文化共生に対する意識や予算、人材は限られていました。今は、自治体の関心が高まり予算もつき始めているものの、市民活動に委託される資金は減りつつあり、NPOにとっては難しい状況になっています。また人材不足が続いているのは、これまで十分な人材育成をしてこなかったためであり、育てていくしかありません。多文化共生に関するノウハウは各所にあります。ただ、単純に情報のありかを伝えるだけではなく、地域で実践できるよう具体的な形に落とし込んでいく必要があります。

 

最後に、土井氏は「他地域の好事例を横展開するには、丁寧なアレンジを協力して行う必要がある。また今後はコーディネーターを養成できる人材の育成も課題になる」、新居氏は「コーディネーターは重要な役割を果たすが、団体基盤は脆弱。多文化共生関係者だけでなく、より広く連携して議論すべき時代が来ている」、川北氏は「課題が発生してから受動的に対応するのではなく、先を見通して備えなければならない。予測できることには対応すべきだと伝えていきたい」と話しました。

 

抄録執筆:近藤圭子