【抄録】第1回 多文化共生時代の地域福祉・福祉制度の現状と課題/日本における外国人と福祉のこれまでとこれから 連続セミナー

(公財)かめのり財団では、「日本における外国人と福祉のこれまでとこれから 連続セミナー」の第1回「多文化共生時代の地域福祉・福祉制度の現状と課題」を、4月13日(木)、オンラインで開催しました。矢野 花織氏(北九州国際交流協会)、長谷部 治氏(神戸市社会福祉協議会)、村松 清玄氏(シャンティ国際ボランティア会)を迎え、川北 秀人氏(IIHOE[人と組織と地球のための国際研究所]代表者)の進行で、お話を伺いました。

 


 

主催者挨拶 公益財団法人かめのり財団 理事長 木村 晋介

 

 2022年度に実施した「国際交流の新局面 連続セミナー」では、外国人の福祉について取り上げました。今年度はこのテーマを深堀し、3回のセミナーを開催します。第1回は外国人支援の実務担当者向け、第2回は社会福祉の実務担当者向け、第3回は総括としています。国際交流と福祉の具体的な連携を考えるよい機会にしていただけたらと思います。

 

 

解説講義 矢野 花織氏(公益財団法人北九州国際交流協会 北九州市多文化共生ワンストップインフォメーションセンター センター長/社会福祉士)

 

   

 外国人相談窓口には様々な相談が寄せられます。私は国際交流協会に所属しながら社会福祉士になりましたが、児童相談所等と異なり法的な権限はなく、ソーシャルワークの自由度にも限界があります。法律や制度も次々変わります。そのため、問題が複雑であればあるほど、行政の担当課や専門家、サービス提供者等と連携することが欠かせません。例えば、妊婦さんからの相談なら保健師に、お子さんの不登校ならスクールソーシャルワーカーに教えていただくのです。そのうち、反対に「外国人の妊婦さんがいるので同席してもらえますか?」といった形で、連携先から頼ってもらえることが増えました。

 

 連携するために不可欠なのが、各種制度の基礎的な知識です。これがなければ、連携先を見つけることができませんし、連携先から外国人相談窓口を信頼してもらうこともできないからです。

 

日本の社会保障制度を利用できるかどうかは、在留資格による。外国人支援実務者にとっては当たり前かもしれないが、外国人対応に慣れていない行政の職員は知らないことも

 

社会保険(広義)は、労働保険と社会保険(狭義)に分類される

 

 外国人支援実務者が最初に知るべき制度は、(1)社会保険です。社会保険のうち労働保険には、労災保険と雇用保険があります。労災保険は、すべての被雇用者が対象になる制度で、非正規滞在者も対象です。厚生労働省のWebサイトに労災保険給付に関する多言語のパンフレットが掲載されています。

 

 雇用保険には、失業時の保険給付や育児休業給付等があります。外国人から相談があった場合、ハローワークの窓口やWebサイトが頼りになります。注意したい点は、留学生は一般的に雇用保険の対象にならないことです。

 

 狭義の社会保険には、健康保険、介護保険、厚生年金保険があります。健康保険には、産前産後休暇中の出産手当金や、病気や怪我で4日以上働けないときの傷病手当金があります。これらは、国民健康保険にはない制度で、社会保険の健康保険に加入している人のみ利用できる制度です。

 

 社会保険について説明するとき、出入国在留管理庁の「生活・就労ガイドブック」が活用できます。言語別に制作されているものです。

 

健康保険、公的年金とも、中長期在留者(公的年金は20歳以上)は加入しなければならない

 

 次に(2)健康保険です。3ヶ月を超えて日本に滞在する人は健康保険に加入しなければなりません。また、(3)公的年金は、3ヶ月を超えて日本に滞在する20歳以上の方に加入が求められます。

 

 公的年金について、外国人から相談されやすいキーワードを3つ挙げました。まず、「社会保障協定」は、20以上の国と日本で結んでいる協定です。保険料の二重負担を防止し、加入期間を通算できる制度です。次に、「脱退一時金」は、帰国する際、払った保険料の一部を払い戻しできる制度です。そして、「任意脱退」の制度は、すでに廃止され今はありません。学生納付特例や産前産後の免除制度等は、日本人と同様に申請できます。日本年金機構のWebサイトには多言語の説明があります。

 

生活保護は、永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、定住者、認定難民、特別永住者に限られる

 

(4)生活保護は、在留資格によって対象者が絞られています。収入だけで最低生活費を賄えない場合、生活保護を受給します。受給中、旅行や貯金のような、最低生活費を超える部分の支出はできません。

 

母子保健に関する制度も様々。留学生や技能実習生から妊娠・出産の相談が増えている

 

 (5)母子保健に関する相談は、近年、各地で増えていると思います。母子健康手帳は、外国人も受け取れます。非正規滞在者も対象です。出産育児一時金は、前述の出産手当金と名前が似ていますが、異なる制度です。出産育児一時金は分娩にかかる費用に対し、50万円が支払われるものです。また、分娩費用が出産育児一時金を超過する分は、産婦に請求されますが、払えない場合、入院助産の制度があります。

 

 子どもの誕生後、14日以内に出生届を役所に提出します。外国人カップルの子でも、日本の役所に届け出が必要です。加えて、各国の法律に基づいて、母国への届け出も必要です。出生届を出すと、60日間は住民票ができます。ただ、日本で暮らし続けるなら、出生後30日以内に赤ちゃんの在留資格を入管で取得しなければいけません。新生児の育児に追われて忘れがちですが、出生後60日を超えると住民票が職権消除され、赤ちゃんでも不法残留になってしまいます。

 

 愛知県国際交流協会「相談員のための多文化ハンドブック」には、どの在留資格の人がどの制度を使えるかをまとめた表(社会福祉編下巻P16)がありますので、参考にしてください。

 

 

事例紹介 長谷部 治氏(社会福祉法人神戸市社会福祉協議会地域支援部担当課長)

 

 生活福祉資金は、各地の社会福祉協議会(以下、社協)が窓口をしている制度です。コロナ禍ではこの枠組みを使い、困窮した方への貸付が行われました。金額は最大200万円で、全世帯の3%が利用しました。貸付先のうち、8.9%は外国人への貸付でした。2023年3月から返済が始まっており、返済できない方の債務整理(償還免除)も進んでいます。

 

生活福祉資金は世帯に対する貸付制度

 

コロナ特例では、裕福でも減収していれば対象となり、困窮していても増収していれば対象外

 

 生活福祉資金の窓口には外国籍住民が殺到しました。生活保護は対象となる在留資格が限られているのに対し、生活福祉資金は在留資格を問わないからです。

 

 外国籍住民が制度の「狭間」に落ちることがあります。例えば、留学生男女が妊娠・結婚する場合です。留学生ビザであるお父さんは、学校に通いながらアルバイトをするものの、働けるのは週28時間までに限られます。育児を担うお母さんは、家族滞在ビザに変更になります。保育所を利用して働きたくても、なかなか預けられません。週28時間は、月収約8〜9万円。3人が暮らしていくには足りませんが、生活保護は受けられません。

 

妊娠・出産に関して、社協は様々な相談を受ける。コロナ前は、出産後に一時帰国して、赤ちゃんを祖母に預けるカップルが多かったが、コロナ禍ではできなかった

 

 社協のコミュニティソーシャルワーカー(CSW)は外国籍住民の支援において、「本人拒否」と「複合問題」に直面します。「本人拒否」とは、日本人への恐怖感がある方やオーバーステイの方等が相談を嫌がることです。行政の制度は、本人が相談に出向かないと支援を受けられないため、CSWは訪問して説得する等、アウトリーチを行っています。「複合問題」とは、外国人労働者や留学生といった日本人とは異なる困難を抱えやすい方が、2つ目の課題(例:妊娠)を持つことであり、対応が難しくなります。

 

 2012年に外国人登録制度が廃止されました。これを踏まえて、外国籍住民を支援対象として、あるいは地域福祉の担い手として捉えている社協は、きちんとアプローチできていると感じます。制度と制度の間にできるのは、自然に生じる「隙間」ではなく、人が作ってしまった「狭間」です。自戒を込めて「狭間」と呼びつつ、これに立ち向かっています。

 

事例紹介 村松 清玄氏(公益社団法人シャンティ国際ボランティア会 国内事業担当)

 当団体は長く海外で国際協力の活動をしてきましたが、約3年前から国内の多文化共生にも取り組んでいます。海外での活動で居場所の重要性を学んだことから、日本に住む外国ルーツの子どもたちの居場所づくりをしたいと考えていたところ、豊島区にある認定NPO法人豊島子どもWAKUWAKUネットワークとご縁をいただきました。活動を始めようとした頃、コロナ禍に突入しました。

 

 豊島区は外国人が多い地域で、10人に1人を占めます。コロナ禍において、生活福祉資金の特例貸付は、区内で約3万件。うち4割を外国人が占めます。国籍別の内訳では、外国籍住民の構成比と異なり、ミャンマー、ベトナム、ネパールが多数でした。困窮層に対して手を打つ必要があると、弁護士、社協、支援団体、行政が連携し、ネットワーク「TOSHIMA Multicultural Support “としまる”」を作りました。

 

「TOSHIMA Multicultural Support “としまる”」の連携体制

 

 としまるでは、外国人当事者を支援者として育てることに力を入れています。外国人が支援者側に立つと、日本人だけでは持てない視点を得られます。例えば、相談会のチラシに対し、「怖いと感じる人がいるので、『警察と入管は来ません』と書いてほしい」という意見がありました。また、社協も重要な役割を担っています。貸付の相談に来た方の名簿に対し、相談会の案内を発送する等、当事者へのアプローチにつながっています。

 

活動の3本柱は、アウトリーチ、支援の実施、支援力強化

 

外国人コーディネーターを軸とした関係づくりや多様なアウトリーチ、専門性のある担い手による連携が強み

 

 相談内容で多いのは、在留資格と仕事です。ネパール人のコーディネーターが自ら、在留資格に関するスライドを作り、日本語・英語・ネパール語の3ヶ国語で講義をしてくれるようになりました。最近は、「支援者側になりたい」と声をかけてくれる外国人も増えました。

 

 としまるの始まりは、コロナ禍の緊急サポートでしたが、コロナは引き金の一つに過ぎません。もともと抱えていた課題が露見したのが今ですので、生活そのものの安定につなげていきたいと考えています。支援者と外国人が一つに集える場を持ち、それぞれの専門性を生かして解決に取り組める体制を作っていきたいと思っています。

 

 

質疑応答

 

 

川北:外国人相談窓口が他の専門職と連携する上で、相談内容を共有する必要があります。個人情報保護との兼ね合いを教えて下さい。

 

矢野:外国人の相談者に対し、「これを解決するには、●●の力が必要なので、そこの職員さんにお話ししてもいいですか」と確認をしています。ほとんどがOKですが、NGの場合は、命に関わることでない限り言いません。他職種との連携を通じて、よく見る光景があります。それは、職員の方が親身になって説明するあまり、難しい日本語を使ってしまうことです。連携先の方とともに、よりよい対応を学んでいきたいと考えています。

 

川北:生活福祉資金の貸付を受けた外国人が多いのは、他の社会保障制度の対象外だったからですね。今後は、貸付を受けた方を、既存の制度につないで支援することになりますが、外国人の場合はこれが困難です。社協はどう向き合おうとしていますか。

 

長谷部:福祉の専門家は、困難な状況に陥っている外国籍住民を、既存の制度になんとかつないで支えたいと思っています。しかし、福祉の専門家のほとんどが、社会保障制度を十分に説明できません。行政の中で、福祉事務所と年金担当は系統が異なり、両方の経験者はほぼいないのです。社協はこれを乗り越えて、社会保障制度に詳しい日本人を育て、地域で支え合えるようにしなければなりません。神戸市兵庫区社協では、中学生のための社会保障教育の学習動画をYouTube()に載せており、他の地域の社協にも活用してもらえたらと思っています。

 

川北:コロナ禍の緊急支援を行うフェーズと、継続的な取り組みにするフェーズでは資金調達の方法が異なります。としまるでは、次の一手をどのように考えていますか。

 

村松:初めは休眠預金制度を活用しました。直近では中長期の助成金もありますが、助成金頼みでは限界があります。最終的には行政との連携を通じ、いかに体制を作るかに行き着くと考えています。数年後を見据えたプランを私たちが作り、行政に提案していく必要があるでしょう。また、社協との関わりを活かし、既存の資金調達の枠組みを活用していくことも考えていきます。

 

最後に、村松氏は「すでにあるリソースをいかに活用するかが大事。民間と行政が歩み寄り、課題をしっかりと捉えて具体的な取り組みにつなげていきたい」、長谷部氏は、「市町村社協によるコミュニティソーシャルワークでは、個別の相談を通じて地域固有の課題を認識していく。一方、都道府県社協はより広域な調査事業を行うことができる。それぞれの特徴を活かすとよいのでは」、矢野氏は「課題を解決できず申し訳なく思っていた相手から、『でも私の気持ちわかってくれた』と言われた。心理的に孤立している外国人の方に寄り添えるようになっていきたい」と話しました。

 

抄録執筆:近藤圭子