【抄録】第3回「国際交流や多文化共生を支援する助成プログラムの『これまで』と『これから』」/国際交流の新局面 連続セミナー2021

(公財)かめのり財団では、国際交流の新局面連続セミナー第3回「国際交流や多文化共生を支援する助成プログラムの『これまで』と『これから』」を、12月13日(月)、オンラインで開催しました。渡邉 邦弘氏(三菱UFJ国際財団 専務理事)、矢冨 明徳氏(佐賀県国際交流協会 企画交流課長)、松村 渉氏(ひろしま NPO センター プロジェクトマネジャー)を迎え、川北 秀人氏(IIHOE[人と組織と地球のための国際研究所]代表)の進行で、お話を伺いました。

 

※本抄録における情報は、2021年12月13日時点の状況に基づきます

 


 

主催者挨拶 公益財団法人かめのり財団 理事長 木村 晋介

 

 新型コロナウイルス感染症の流行により、世界中の様々な事業が負の影響を受けていますが、一方で、制約を乗り越えて人材育成の取組みが続けられています。今回は助成プログラムについて伺います。最前線で取り組む方々の旬なお話を、皆さまのこれからの活動にお役立ていただければと思います。

 

渡邉 邦弘氏(公益財団法人三菱UFJ国際財団 専務理事)

 

 

 三菱UFJ国際財団は、2008年に三菱銀行国際財団、UFJ国際財団を統合する形でスタートしました。統合前の財団の源流をたどると、事業開始は1981年までさかのぼります。人材育成事業と国際交流事業を行っており、今回は国際交流事業の中の一般公募助成についてお話します。

 

 一般公募助成は、1982年に開始しました。国際理解や国際交流の活動をする学生団体および一般団体を対象に、活動資金の一部を助成しています。審査で重視するのは、名前や規模、歴史ではなく、活動の中身です。草の根で「一隅を照らす」活動をする団体にフォーカスし、当団体の公益目的に適う「志の高い」案件に助成することを意識しています。

 

2020年までの39年間で、延べ1,166団体、14億4千万円を助成

 

 コロナ禍で人的移動がほぼ止まる中、非常に多くの採択団体が、プログラムの中止や変更を決定しています。2020年度、42件1,850万円の採択に対して、実際に助成を行なったのは15団体570万円。2021年度も、44団体1,900万円の採択に対して、2021年11月末時点で16団体605万円の助成であり、すでに11団体が事業中止やプロジェクトの縮小に追い込まれています。

 

新型コロナの感染状況を受けて、プログラムを中止・変更する団体が相次いでいる

 

 活動を続ける団体はオンラインを活用しています。海外の団体とのミーティングや交流会、来日できない海外メンバーのためのオンラインツアーなどです。これまで当財団が助成する対象は基本的に対面での開催でしたが、昨今の事情を踏まえ柔軟に対応しています。

 

 そもそも国際交流の形に「正解」はなく、時代や環境に応じて絶えず変化していくものです。しかし、草の根で「一隅を照らす」活動をする団体の「志の高い」案件を支援するという基本的な考え方は、これからも変わりません。今、国際交流団体の悩みにいかに寄り添っていくかが、我々の課題だと思います。団体同士の横の連携をサポートしたり、主に学生団体に対して活動の継承をサポートしたりと、国際交流活動が縮むことのないよう、必要な助成を心がけたいと思います。

 

財団も交流団体も活動がShrinkしないよう、必要な助成を行う

 

矢冨 明徳氏(公益財団法人佐賀県国際交流協会 企画交流課長)

 

 

 佐賀県国際交流協会は、「心の国境をなくそう!」をスローガンに活動する団体です。助成事業としては、地域日本語教育支援事業や多文化共生等助成事業を行っています。

 

佐賀県の在住外国人は1990年比3倍以上に。在留資格は技能実習が、国籍はベトナムが多い

 

 当協会における助成プログラムの「これまで」は、国際交流・多文化共生の「これまで」と関連しています。全国各地に国際交流協会が生まれたのは、1989年の自治庁からの指針「地域国際交流大綱の作成に関する指針について」がきっかけでした。当時の目的は国際交流ですが、その後1995年の指針で国際協力が加わります。そして2006年、総務省「地域における多文化共生推進プラン」によって、多文化共生が加わりました。当団体も指針をもとに設立され、翌年から国際交流の助成プログラムを始めました。その後、助成対象に国際協力活動、多文化共生、日本語グループ支援が加わっていきました。

 

国際交流協会の役割が変わるとともに、助成プログラムも変化してきた。これからも変化が期待される

 

 多文化共生は今、新時代を迎えていると捉えています。2020年、多文化共生推進プランが改訂され、「外国人住民による地域活性化やグローバル化への貢献」、「地域社会への外国人住民の積極的な参画と多様な担い手の確保」が掲げられました。2021年12月には、多文化共生の有識者会議が意見書を提出し、「様々な背景を持つ外国人を含む全ての人が社会に参画し、能力を最大限に発揮できる、多様性に飛んだ活力ある社会」が示されています。

 

 以上を踏まえると、これから期待されるのは外国人が担い手となる活動への助成だと、個人的には考えています。助成の情報を外国人に届けること、多言語での申請ができること、また活動の場づくりや仲間とのつながりづくりもポイントになると思います。

 

災害時は特に、地域の担い手不足が露呈する。平時から外国人と日本人がともに担い手となる地域づくりと、活動を支える助成プログラムが必要

 

松村 渉氏(特定非営利活動法人ひろしま NPO センター プロジェクトマネジャー)

 

 

 ひろしまNPOセンターは、県域を対象とした中間支援組織です。今回は、休眠預金を活用した助成事業についてご報告します。休眠預金の活用は、(一財)日本民間公益活動連携機構(JANPIA)によって採択された資金分配団体が、地域の活動を公募し助成する仕組みとなっています。私たちは中国5県の中間支援団体でコンソーシアムを組み、これまで5事業において資金分配団体に採択されてきました。そのうち新型コロナ対応緊急支援助成で、外国人就労・居場所支援を行っています。2020年8〜9月に地域から公募した結果、5団体、計1,660万円の助成が決定しました。助成先の活動は、緊急避難のためのシェアハウスや、留学生の起業支援、受入企業に対する外国人雇用研修など多岐に渡っています。法人格も多様であり、多文化共生は特定の誰かが担うものではなく、すべてのセクターが行動するものだと感じました。

 

中国5県新型コロナ対応緊急支援助成の外国人就労・居場所支援では、5団体に助成した

 

 外国人の就労や居場所に関して、問題の根本を蛇口と例えるならば、受け皿となる環境が水槽です。今回の助成は、水槽からこぼれ落ちないよう支えるセーフティネットが対象でした。しかし、蛇口を止めること、水槽を整えることにも、並行して取り組む必要があります。

 

緊急的なセーフティネットの支援、環境整備、問題の根本への対応のどれもが大事

 

 今後、「外国人受入環境整備」に取り組んでいきたいと考えています。外国人「就労」環境ではなく、「受入」としたのは、制度、くらし、仕事のすべてが関わるからです。すべてのセクターによる「総働」で環境整備を行うためにはまず、蛇口からセーフティネットまでの問題構造を共有すること。次に、問題に対し自団体にできる点を明確にし、できない点は連携することです。そうして生まれるプロジェクトに対して助成を行うのが、これからのやり方ではないかと考えています。

 

行政、企業、NPOのどれもが欠かせない存在であり、同時に、1団体で対応できる問題でもない。協働・総働のプロジェクトに対し、助成を行う

 

質疑応答

 

 

川北:今の若者世代は、気候変動問題における国を超えた連携など、より具体的で踏み込んだ考えを持つように感じます。長年、助成をされてきて、学生の国際交流に質的な変化を感じますか。

 

渡邉:学生の熱量は総じて高いと感じています。「外国語を使いたい、交流したい」というよりは、交流を通じて何をするのか、目的が明確な印象があります。外交上の難しい問題が横たわる中でも、それを踏まえながら、国の違う学生同士が未来に向けた話をしている様子は好ましく、応援したい気持ちになります。難しいテーマにも果敢にチャレンジしています。

 

川北:かつての国際交流は県庁所在地など都市部が中心でした。しかし、技能実習生は農山漁村部に多い傾向にあります。活動に地理的な広がりを感じますか。また、当事者に担ってもらいたい活動のテーマはありますか。

 

矢冨:技能実習生は県内の様々なところにいます。地域住民と一緒に農作業をする、地域の祭に参加するなどしており、今後、助成をつないでいけたらと思います。当事者の活動としてすでにあるのは、タイやスリランカ、ミャンマーの方による災害時の情報発信の動きです。また、同じ国の人同士、SNSで生活にまつわる情報交換をしているので、こちらにも助成をつないでいきたいと思います。

 

川北:今回の休眠預金事業の助成先には企業もありました。企業を支援する際のポイントはありますか。

 

松村:今回は休眠預金等活用のルールに則った収支情報の公開が必要でした。そのため、企業の営利部門と非営利部門の棲み分けを明確化し、ガバナンス機能の有効性についてJANPIAの確認を受けました。また、助成先ではありませんが、他県の外国人当事者から県内中小企業に対し、緊急性の高い相談が届いた例があります。一企業での対応は難しく、当団体で全国のネットワークを使い、支援につなげました。横のつながりが苦手な企業に対し、NPOセンターがサポートできる面があると感じます。

 

最後に、「お互いの理解を深めるために日本の中高生に対してプログラムを行うとしたら?」との質問に対し、渡邉氏は「総花的に考えるより、どこか一つの国の文化を深堀してつながりを感じられるとよいのではないか」、矢冨氏は「佐賀県内で作られる野菜やコンビニ弁当も外国人が担っている。その現場を見て知ることが大事」、松村氏は「コミュニケーションに制約をつけたワークを取り入れるなど、相手を気遣い分かり合うプログラムは良いと思う」と話しました。

 

抄録執筆:近藤圭子