【抄録】オンラインセミナー2026「知る!考える!世界とつながる!共生が広がる!」 〜グローバル化する日本社会で、未来を拓く自分のチカラを見つけよう〜第2回

 かめのり財団では、2年ぶりにオンラインセミナーを開催しました。今回のセミナーは、中学生・高校生・大学生のみなさんが対象です。

テーマは「多文化共生」と「一歩踏み出すチカラ」。いまの日本社会がどのように変化しているのか、異なる文化や背景を持つ人たちとどう関わり合っていけるのか、一人ひとりがよりよい未来に向けてどのように一歩を踏み出していけるのか。全国各地から約75名の参加者がオンライン上に集い、一緒に考えました。

 

 

 


 

 8月12日(水)に開催した第2回のテーマは、「自分のものさし」。「誰かのものさしで自分を測っていませんか?」と問いかけるのは、早稲田大学文化構想学部教授の髙野孝子さんです。「Cゾーン(自分の居心地のよい空間)」から一歩踏み出し、自分の世界を広げていくには?ご自身の経験や中学生・高校生・大学生とのかかわりの経験を踏まえて、お話しいただきました。

 


 

「自分のものさし」 

 

話:髙野孝子氏(早稲田大学文化構想学部教授)

 

 私は大学で教員をしながら、NPO法人エコプラスの活動をしています。30年以上前、「より平和で豊かな未来を実現するにはどうすればよいか」という問題意識から仲間とともに活動を始めました。研究活動も実践の中で生まれた問いが出発点です。私が大切にしているのは、体験を通した学びです。すべての人が実際に体験をしながら学ぶことは、平和で豊かな社会につながると考えています。

 第1回では田村さんから共生社会の考え方について学びました。今回は少し視点を変え、共生社会の土台となる一人ひとりの行動について考えてみたいと思います。講演タイトルの「自分のものさし」には、何かを決めたり行動したりするときに、本当に自分自身で考えているだろうかという問いを込めました。国際交流や異文化に関心のある皆さんが自分の考えで一歩踏み出すきっかけになればうれしく思います。

 

髙野 孝子さん

 

自分の行動を妨げる壁は、自分の中にあった

 

 私は新潟県南魚沼市の、雪がとても多い地域で育ちました。田んぼや山に囲まれた自然豊かな環境で、私にとって自然は最高の遊び場でした。その後、東京の大学に進学した私は、留学したいという思いを抱くようになります。しかし、そこで直面したのが、親の反対という壁でした。

 皆さんも、お金がない、時間がない、年齢、性別、成績など、自分の前に壁を感じることがあるのではないでしょうか。そんなとき、あきらめそうになりませんか。でも、そうした「壁」の大抵は「言い訳」だったりします。親の反対を「壁」という言い訳にして、留学をあきらめることもできたかもしれません。ですが、説得のための長い手紙を綴り、祖母の後押しもあって、留学を実現できたことは大きな経験となりました。

 留学中は学業だけでなく、多くの家庭に滞在しながら、アメリカ、カナダやメキシコを旅し、多様な生き方に触れました。この経験を通して、「自分の人生は自分で決め、その結果に責任を持つ」という人生の指針を得ました。自分の行動を妨げる壁は、いつも自分の中にありました。だからこそ皆さんにも問いかけたいと思います。自分の進路を自分自身で選んで来たでしょうか。他人に人生の選択をゆだねるのではなく、自分のものさしで考えてほしいと思うのです。

 

 

壁は私の中にあった。ほかの誰かのものさしを使っていた

 

 

人は、国籍や肩書ではなく、一人の人間として出会える

 

 留学から帰国すると、周囲はすでに就職活動をしていて焦りました。そんな折、私は「オペレーションローリー」という国際交流プログラムを知り、ぜひ参加したいと思いました。さまざまな国の若者たちがオーストラリアで3か月間共同生活を送りながら学ぶプログラムです。言葉や文化、価値観の違いを超えて共に暮らし、働く経験を重ねる中で、私は大切なことに気づきました。人は国籍や肩書ではなく、一人の人間として出会うことができるということです。

 初めは、相手を「日本人」「アメリカ人」「イギリス人」というように、国の名前で捉えていました。ところが、生活を共にするうちに、国の名前は消え、気づけばその人「個人」と付き合っていました。英語が十分でなくても、信頼関係ができれば気持ちは通じ合います。この経験は、「平和は実現できる」と信じる原点となっています。

 その後、大学院修了前にはアマゾン川をカヌーで下る旅を経験し、人の価値は社会的な立場や肩書ではないと気づきました。地域の人と関わる中で、いかに人と向き合い、何を与えられるかという視点から、「豊かさとは何か」という新たなものさしを得ました。

 就職後も世界各地を訪れ、そこで暮らす人々との出会いを重ねました。次第に、出会った人々が不正義のもとにあること、今のままでは社会は持続しないことが見えるようになりました。植民地化、戦争、差別、環境破壊、気候変動など、これから社会を作っていく私たちは社会の課題に取り組む必要があると思い、エコプラスを立ち上げました。ミッションは平和で持続的な未来に貢献すること。大事にしているのは、共同作業をすることです。言葉が通じなくても、一緒に作業をする中で人はつながることができます。人と自然、異文化とのかかわりを通して、すべてのつながりを実感し、ちがいを受け入れる姿勢を育むことが平和への第一歩だと考えています。

 

 

体験から学ぶこと、「場」から学ぶことを大切にしている

 

 

Cゾーンから一歩出て、「自分のものさし」を育もう

 

 私たちは普段、安心できる「コンフォートゾーン(Cゾーン)」で生活しています。しかし、一歩出てみることで新たな学びや成長が生まれます。実際にやってみることで、初めて見えてくる世界があるのです。

 エコプラスが30年にわたって行ってきた、ミクロネシア連邦ヤップ島でのプログラムでも、たくさんの若い参加者がCゾーンを超える経験をしてきました。伝統文化が色濃く残る島で、自然から食べ物を得る暮らし、命をいただく経験、戦争の痕跡、海面上昇やごみ問題に向き合います。便利な生活の中では見えにくい「生きること」の本質を、体全体で感じる時間になります。

 先日、ゼミ生と訪問したハワイでは、先住民の歴史や文化、そしてパールハーバーに残る戦争の記憶に触れました。そこで聞いた「誤解」と「恐れ」が戦争につながるという言葉は、今も強く心に残っています。第1回のセミナーでは田村さんが、知らないことが不安を生み、壁を作ると話していましたが、不安や恐れは、人を傷つける言葉や差別につながることがあります。

 数年前には、オペレーションローリーの参加経験者やヤップ島プログラム参加者の25年後を調査しました。参加した人たちの多くは、何年も経ってからも、その経験が自分の仕事、暮らし、子育て、地域との関わり方に影響していると話してくれます。深い体験は、その場だけで終わらず、その後の人生を支える力になるのだと思います。

 ぜひ皆さんには、人と自然に深くかかわる経験を重ねてほしいと思います。多様な人々との出会いの中で、自分のものさしを育み、そして、そのものさしで、平和な共生社会をつくっていってほしいと願っています。

 

 

冒険とは、Cゾーンを超えること

 

 

 質疑応答では、「周りと違う道を選ぶのは勇気がいる。どうやって行動まで至ったのか」や「髙野さんがもう一度行きたいと思う地域は」などさまざまな質問が寄せられました。

 かめのり財団では、中学生・高校生・大学生を対象としたさまざまなプログラムを実施しています。異なる文化や背景の人との交流やともに活動するきっかけとして、ぜひ応募してみてください。

 

 

抄録執筆:近藤圭子

 

関連リンク:第1回「国境を超える人の移動と私たちの暮らし~多文化共生と地域の未来について考える~」