【抄録】オンラインセミナー2026「知る!考える!世界とつながる!共生が広がる!」 〜グローバル化する日本社会で、未来を拓く自分のチカラを見つけよう〜第1回
2026.09.30
かめのり財団では、2年ぶりにオンラインセミナーを開催しました。今回のセミナーは、中学生・高校生・大学生のみなさんが対象です。
テーマは「多文化共生」と「一歩踏み出すチカラ」。いまの日本社会がどのように変化しているのか、異なる文化や背景を持つ人たちとどう関わり合っていけるのか、一人ひとりがよりよい未来に向けてどのように一歩を踏み出していけるのか。全国各地から約75名の参加者がオンライン上に集い、一緒に考えました。
7月27日(月)に開催した第1回のテーマは、「国境を超える人の移動と私たちの暮らし~多文化共生と地域の未来について考える~」です。多文化共生の地域づくり、地球規模の人の移動や、私たちの暮らしに訪れる変化について、一般財団法人ダイバーシティ研究所代表理事の田村太郎さんに伺いました。
話:田村太郎氏(一般財団法人ダイバーシティ研究所代表理事)
外国人の方の受け入れについて関心が高まる今、中学生・高校生・大学生の皆さんに向けてお話しできることをうれしく思います。
私が高校3年生だった時、「ベルリンの壁」が崩壊し、私は卒業後にお金を貯めて現地に行きました。かつて世界は東西に分かれ、壁を超えて移動することはできませんでした。ベルリンに集まった世界中の人たちと話をしながら、私は、「壁は人間がつくるものだが、同時に人間が壊すこともできる」と知りました。私たちの身近にも「壁」があります。「言葉の壁」「制度の壁」「思い込みの壁」をどう越えていくのか、皆さんと一緒に考えたいと思います。
被災した外国人への情報提供から、多文化共生の活動へ
私が多文化共生に深く関わるようになったきっかけは、阪神・淡路大震災のときに、被災した外国人の方へ必要な情報を届ける活動をしたことでした。
災害が起きた直後は、家が壊れた、お腹がすいたといった困りごとが共通しています。しかし時間がたつと、住まい、仕事、手続き、医療、学校など、困りごとは人によって分かれていきます。仮設住宅の申し込みや役所での手続きは日本語で行う必要があり、「言葉の壁」が次第に高くなっていくのです。私は当初、一時的な活動のつもりでしたが、同年10月に「多文化共生センター」を立ち上げました。
当時、私は23歳でした。日本社会は決して、学歴や年齢で人を評価しません。若くても、役に立つことをしている人は、世の中が評価してくれます。これは、今日皆さんに伝えたいことの一つです。
対等な関係を築こうとしながら、共に生きていく
多文化共生とは、外国人を一方的に助けることだけを意味する言葉ではありません。総務省の定義では、「国籍や民族などの異なる人々が、互いの文化的ちがいを認めあい、対等な関係を築こうとしながら、共に生きていくこと」とされています。ここで特に大切なのは、「築こうとしながら」という言葉です。対等な関係は、一度できたらずっとそのまま続くものではありません。相手が変わったり、社会の状況が変わったりすれば、また考え直す必要があります。だからこそ、外国人だけが日本社会に合わせるのでも、日本人だけが相手に合わせるのでもなく、お互いに少しずつ変わりながら、排除のない社会をつくっていくことが必要です。
私は、多文化共生を考えるときに三つの視点を大切にしています。
一つ目は、「あってはいけないちがいをなくす」視点です。国籍や言葉のちがいを理由に、大事な情報が届かなかったり、必要な手続きができなかったりしてはいけません。
二つ目は、「なくてはならないちがいを守る」視点です。どんな名前で呼ばれたいか、宗教や食事、時間の考え方などは、人によって違います。「日本では昔からこうしてきたから」と決めつけるのではなく、話し合いながら調整することが大切です。
三つ目は、「ちがいを受け入れる社会をつくる」視点です。外国人だけが日本語や日本のルールを学ぶのではなく、同じ地域で暮らす私たちも相手の文化や背景を知り、学校や職場、地域全体を少しずつ変えていく必要があります。
不安は「知らないこと」から生まれる
今、日本で暮らす外国人は増えており、国籍、在留資格、年齢、住む場所、経済状況もとても多様になっています。以前は、大きな工場の近くに外国人がまとまって暮らす姿がよく見られました。しかし最近は、建設、介護、医療福祉など、さまざまな仕事の現場で外国人が働き、これまで外国人が少なかった地域にも暮らすようになっています。急に身近なところに外国人が増えると、不安に感じる人もいるかもしれません。でも、その不安の多くは「よく知らない」ことから生まれます。ごみの出し方、食べ物の匂い、生活の音などのトラブルも、理由がわかれば受け止め方が変わります。だからこそ、住み分けるのではなく、出会い、理由を知り、話し合う機会を増やすことが大切です。
また、これからの人の移動は、日本国内の事情だけでは考えられません。気候変動によって住み続けることが難しくなる地域があります。人口が大きく増える地域では、仕事や食べ物が足りなくなることもあります。貧困、紛争、ジェンダーギャップなども、人を住み慣れた場所から押し出す理由になります。一方で、仕事があること、平和であること、性別にかかわらず学ぶ機会があることは、人を引きつける理由になります。人の移動には、押し出す力(プッシュ要因)と引きつける力(プル要因)の両方があります。日本の人口が減るから外国人に来てもらう、あるいは不安だから来ないでほしい、という考え方だけでは狭すぎます。たまたま自分が安全で豊かな場所に生まれたからといって、厳しい状況にある人が移動したいと思う気持ちを、壁で止めてよいのかを考える必要があります。
外国人はともに地域を作る仲間。一緒に考え、一緒につくる
そのうえで、地域に必要なのは、外国人を「支援される人」とだけ見るのではなく、一緒に地域をつくる仲間として迎えることです。多文化共生の取り組みには、言葉の支援や生活の支援だけでなく、地域の人たちの意識を変えること、外国人が地域活動に参加できるようにすること、地域を元気にすることも含まれます。外国人が、趣味の活動、ボランティア、自治会、防災、商店街、学校、地域イベントなどに参加し、自分の得意なことを発揮できる仕組みをつくることは、外国人のためだけではありません。地域全体の未来を豊かにするために必要なことです。
私は、若い世代には地域を変える大きな力があると思っています。外国にルーツのある子どもの学習を手伝うこと、防災マップを一緒につくること、スポーツや食文化を通じて交流すること、多言語の地域案内をつくること、商店街や公民館で企画をすることなど、中学生や高校生だからこそできることがあります。むしろ、大人が言うよりも、中学生や高校生が提案した方が、地域の大人が動いてくれることもあります。今は翻訳や発信の技術も進み、言葉の壁は以前より低くなっています。大切なのは、相手のために何かを「してあげる」という姿勢ではなく、相手と一緒に考え、一緒につくることです。
「ちがい」をエネルギーに変え、誰もが安心して活躍できる地域へ
人の移動の自由は、冷戦が終結した20世紀の終わりに人類が獲得した大切な権利です。この権利をこれからも保証していくことが大事だと、私は思います。最後に私が伝えたいのは、「寛容さ」が必要だということです。都市について研究したリチャード・フロリダは、これから成長する都市には、「3つのT」、すなわちTechnology(技術)、Talent(人材)、そしてTolerance(寛容性)が必要だと述べました。多様な人が安心して暮らし、自分の力を発揮できる地域こそ、これから選ばれる地域になります。
男性、女性、高齢者、若い人、日本人、外国人といった多様な視点が、私たちが自分たちの社会を見直すための大切な気づきをもたらします。ちがいをエネルギーに変え、誰もが安心して活躍できる地域を目指しませんか。ぜひ多文化共生について考える夏にしてもらえたらと思います。
質疑応答では、「『あってはいけないちがい』と『なくてはならないちがい』の見分け方は」や「文化のちがいを認め合う上で、芸術や音楽が果たす役割は」などさまざまな質問が寄せられました。
第2回は「自分のものさし」をテーマに、早稲田大学文化構想学部教授の髙野孝子さんにお話を伺います。第2回の様子はこちらからご覧ください。
抄録執筆:近藤圭子