2023年度採用 6名の大学院留学アジア奨学生をご紹介します

2023年4月、かめのり財団では新たに6名の大学院留学アジア奨学生を迎えました。高い志を持って日本での留学生活や研究活動に向き合う新奨学生より、自己紹介のメッセージが届きましたのでご紹介します。

 


 

麻 俊凡 MA JUNFAN マ シュンボン(中国)

上智大学大学院文学研究科 新聞学専攻 博士後期課程1年

 

 グローバル化が進む中、日本国内の外国人の存在が当たり前になってきた現代において、在日外国人問題は日本で多文化共生社会を構築するために極めて重要な課題だと考えられます。私は特に、日本のメディアが在日外国人の人権問題にどのように関心を持ち、発信しているかについて関心を抱いています。

 

 今まで日本といえば、「単一民族」という国民の自意識が強く、外国からの移民に対して閉鎖的なイメージがあります。また、日本の法律は市民権利を尊重するが、日本に移住した外国人を市民の枠組みに移したのも1990年代以降のことです。民主主義的な平等は一気呵成に達成できることではないが、2021年の名古屋入管でのスリランカ人女性ウィシュマさんの死亡事件を機に、メディアは急に「入管問題」を社会問題として指摘し、これまであまり話題にならなかった課題が広く認知されるようになりました。

 

 私は新聞学を専攻しており、多文化共生の視点からメディアの社会学を研究テーマとし、日本社会において特別な位置付けある「在日外国人問題」に着目しています。テレビ・ドキュメンタリーを研究対象にし、デジタルメディアが急速に進化する中で、放送ジャーナリズムが社会に与える影響を詳しく検討したいと考えています。

 

 放送メディアの表現の仕方に寄与する点において、外国人問題の枠組みを明らかにする研究の意義は高いと言えます。日本国内の在日外国人問題が複雑であり、テレビドキュメンタリーの情報伝達の効率を優先させたことが背景になっていると推測できるからです。要するに、在日外国人問題に関するテレビドキュメンタリーを研究することで、放送メディアとして、情報伝達の限界を究明したいと考えています。

 

 この度、かめのり財団の大学院アジア奨学金のご支援をいただけることになり、心より感謝しております。奨学金を受け取ることができたことを、たいへん光栄に思っています。私は、かめのり財団の理念「未来をつなぐ」に共感し、それぞれ異なる文化を持つ若者同士の交流を通じて、社会に貢献することができる人材となることを目指します。これから、学業において熱心に学び、社会に貢献できる研究や活動に取り組みたいと考えています。また、この奨学金を通じて、財団の理念に賛同する仲間たちと出会い、ともに異文化コミュニケーションに関連する社会課題に取り組んでいきたいと思っています。

 


 

曹 怡 Cao Yi ソウ イ(中国)

お茶の水女子大学大学院 比較社会文化学専攻 博士後期課程1年

 

 私の研究テーマは、中世和歌の新しい中国文学への摂取です。平安時代から新古今期まで、白居易の詩文を中心に唐詩からの享受について様々な研究がなされたが、中世において、宋詩や山水画からの影響が、まだ研究の重点に置かれていないのが現状です。中世日本文学が唐宋文学から受けた影響について、全て中国文学からの摂取として曖昧にまとめて扱うのではなく、区別をつけ、その発展ルートを明確に示す必要があります。そこで、平静淡泊な宋代文学が、中世和歌に反映されたかどうか、また、宋元文学を母体とした五山文学は、どのような役割を果たしたか、その意義について、研究しています。

 

 目の前の博士後期課程のみではなく、将来の研究目標に関しては、日本文学の一端である和歌において、中世の東アジア交流の様子を究明したいです。卒業後も日本の学校機関で研究を続け、自分の研究において、より和漢比較文学の領域を深め、学術のみではなく、社会にも貢献できればと考えています。また、教育の面において、自分の勉強した知識、例えば、日本語と文学の両方を学生に教えることを通し、より多くの人に当時の文化交流の様子を紹介して、多くの交流イベントなどに力を捧げたいです。

 

 この度かめのり財団様に奨学生として採用していただき、誠にありがとうございます。若い世代の交流、日本語および日本文化学習の推進を目的とする、財団様のご理念は、自分の夢にも通じるところがあります。大学時代から、活動やイベントに参加し、日本の方とのコミュニケーションをしている私も、まさに将来は日中交流の架け橋になりたいという夢を持っています。

 

 自分の研究内容には、和歌、宋代詩文、山水画、禅宗思想など、様々な面とも関連するため、グローバル的な視界の下で、東洋共通の審美眼と美意識に深く関わります。それで、自分の研究が、相互理解を深め、影響し合った文化を発掘することで、現代ひいてはこれからの未来において重要な意味になり得る結果を解明していきたいです。これからも、国際的文化交流の面に尽力し、頑張り続けたいと思っております。

 


 

陳 籽言 Chen Ziyan チェン ジアン(中国)

横浜国立大学大学院環境情報学府 自然環境専攻 生態学プログラム 博士前期課程1年

 

 私は環境学の内、生態系評価学を専攻しており、博士前期課程において「里山二次林の下草管理による地表節足動物と土壌微生物の変化を介した植物生産量および分解の変化」を研究テーマとして研究を行っています。

 

 今の時代では、「環境にやさしい社会を作る」という課題を掲げられて、社会全体における環境保全への認識度が高くなっていると言えるでしょう。しかし、経済高度発展の20世紀においては、経済発展に注目しすぎて環境破壊が知らないうちに進行しています。人間にとって、水俣病、イタイイタイ病が知られているが、生態系には地球温暖化、生物多様性の減少などが知られています。私の研究はその生物多様性の減少に着目して、里山という生態系において生物多様性減少という問題に対して対策やその対策の効果について研究を行っています。

 

 人間管理が異なる公園や自然体験林などのところにおいて、元里山の管理活動と似ている管理を加える場合、管理の手法を検討することや管理の効果を調べることが里山の生物多様性減少問題の緩和や里山再生に価値があると考えています。生物多様性減少という問題は日本のみならず、地球範囲で発生していることであり、私の研究を通じて日本、中国、他の国で少しでも役に立つことを願っています。

 

 この度、かめのり財団の奨学生として採用していただき、誠にありがとうございます。私はかめのりファミリーの一員になれて、とても幸運だと思っています。現役の奨学生の皆さんと証書授与式でお会いできて、これからもより良い関係を築いていきたいと思い、日本でよい仲間になれば幸いです。

 

 将来的に地球の元の姿を維持する目標を持って、日本、中国、地球規模で行われている環境問題の緩和事業に努めていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

 


 

グ 弦俊 Koo Hyeonjun グ ヒョンジュン(韓国)

立教大学大学院 社会学研究科社会学専攻 博士後期課程1年

 

 私は、「労働市場における外国人労働者の社会経済的統合」というテーマで研究を進めております。現在、日本と韓国は、少子高齢化による労働人口不足の問題が深刻化しているため、在留外国人は、ホスト住民に代わって労働市場での新たな担い手になると考えられます。しかしながら、労働市場におけるホスト住民と外国人労働者との格差はまだ残っており、賃金の側面だけでなく、昇進・昇格などの側面での不平等もいまだに解消されておりません。したがって、本研究は、外国人労働者の社会経済的地位達成を分析することで、労働市場における統合水準について考察することを目指します。また、労働者個人が持つ人的資本だけでなく、彼ら/彼女らを取り巻いている社会構造的要因の影響を明らかにしたいと思っております。

 

 この度は、かめのり財団の大学院留学奨学生として採用していただき、誠にありがとうございます。私は、グローバリゼーションにより国境の概念や役割が薄れていくとはいえ、まだ人々の心の根底には障壁が存在していると思います。こうした障壁をなくすためには、話し合い・理解し合いなど、コミュニケーションをとるための交流の場が重要だと思います。実際、私が修士論文を執筆する過程でデータを分析した結果、外国人労働者に対し、ホスト社会への帰属意識や根付きを促進するためには、社会的ネットワークの役割が非常に重要であることがわかりました。そのため、日本とアジア・オセアニア諸国の若い世代の人々を中心として、多様な事業を通じて交流の場を作ることで、分断を乗り越える人材育成を目指しているかめのり財団の理念について、私は心の底から理解し、共感しております。今後ともかめのり財団の一員として、様々な交流活動や支援活動などに参加できる機会があると考えられますので、それらに積極的に参加し、異文化に対する認識をポジティブに変化させるのに一助したいと思っております。

 

 博士後期課程の3年は、短ければ短く、長ければ長い時間だといえます。自分の研究をさらに発展させるために進学を決めた以上、研究に邁進していく必要があります。だが、生活面でもよくバランスをとり、留学中に勉強ばかりするのではなく、様々な思い出を作っていきたいと思っております。このような点で、奨学生として採用していただいたことに、改めて心より感謝申し上げます。これからもかめのり財団をはじめ、OB・OGや他の奨学生の方々に貢献できるように努めてまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 


 

黄 沐春 Huang Muchun コウ モクション(中国)

早稲田大学大学院 商学研究科 博士前期課程1年

 

 日本に来て6年目。今年は、早稲田大学の商学部を卒業して、商学研究科に進学しました。私の研究テーマは、AI技術が国際貿易に与える影響に関する計量分析です。

 

 近年、AIが驚異的な速度で進化していて、私たちの生活や社会に巨大な変革をもたらしています。例えば、AIによって、作業の自動化が可能になり、時間と労力の節約にもつながります。AIは単純な作業を正確で効率よく行うことができるためには、人間はより創造的なタスクや戦略的な意思決定に集中することができます。また、AIはデータの分析や予測能力に優れて、ビジネスや医療などの領域で新しい洞察を提供し、問題の解決において極めて重要な役割を発揮しています。確かに、AIの登場により、仕事を失うリスクを抱える人が出てくるのは事実ですが、一方でエンジニアなどのhigh-skilled労働者に対する需要が大幅に増えているなど、AIが新たな仕事を創出することも認めなければなりません。要するに、AIは人間社会に数多くの恩恵をもたらしています。 

 

 しかしながら、AIにはいくつかの危険性も存在しています。例えば、個人情報の漏洩やセキュリティ上のリスクが懸念されています。また、AIの意思決定プロセスが透明性にかける場合、バイアスや偏見の問題が生じる可能性もあります。これらの課題に対処するためには、論理的なガイドラインや適切な規制の策定が必要とされています。

 

 要するに、AIは諸刃の剣と言っても過言ではありません。もしAIの力を合理的に活用して、その可能性を最大限に引き出すことができれば、人類社会はこれまでに類もない進歩を遂げることができるかもしれません。そして、近年の経済のグローバル化に伴い、国際貿易は無視できないテーマとなっています。 したがって、AIが国際貿易にどのような可能性をもたらすかという点を明らかにすることは、経済や社会に非常に大きな影響を与える可能性があります。

 

 実際には、AIが国際貿易に与える可能性については、多くの展望があります。AIによって生じるデータの分析や予測能力は、貿易の効率化やリスク管理の向上に役立つ可能性があります。さらに、AI技術の進歩により、貿易プロセスの自動化や物流の最適化が進むことが期待されます。しかし、AIの導入には国際的な調整や相互信頼が必要であり、デジタル格差の問題なども考慮しなければなりません。

 

 私の研究では、AIが国際貿易に与える具体的な影響を計量経済学の手法を用いて分析しています。AIの現状や良い影響、危険性についての理解を深めることで、より効果的な政策や戦略の策定に貢献したいと考えています。今回、奨学生として選ばれたことで、夢に一歩近づいたと思います。この機会を大切にし、価値ある研究をしていきたいと思います。

 


 

侯 心琦 Hou Sin Chi ホウ シンチ(台湾)

名古屋大学大学院 経済学研究科 社会経済システム専攻 博士前期課程1年

 

 台湾で大学卒業してから、一年半監査法人の仕事を経験し、日本に留学に来ました。私は企業財務に関心を持っており、日本と台湾企業の企業価値評価を研究テーマとしています。研究内容は、財務面から日本と台湾業界別の資産運用効率をまとめ、その結果に基づき両国それぞれ競争力のある企業のビジネスモデルを分析し、さらに財務データを使って企業価値の計算を行い、その企業の投資決定が企業価値創造に貢献できたかを検証したいと思います。この研究を通じて、日本と台湾企業の経営上の共通している強みと補い合える所が分かり、将来のビジネス交流には有益な情報になればと思います。

 

 このたびはかめのり財団の奨学生として採用していただき、誠にありがとうございます。私は学部時代に異文化交流サークルのスタッフとして活躍しており、名古屋大学でも国際交流イベントを積極的に参加しています。国や地域が違えば、文化、風習、価値観などは異なりますので、語学力を磨きながら自分の視野を広げることが、私にとって異文化交流の醍醐味です。また、グローバル化の時代では、文化の違いによる誤解が生じやすいが、その文化の違いがあるからこそ、多文化共生社会を築き上げ、激しい変化にも対応できるような社会になれると思います。私は、国籍や人種に関わらず、柔軟に人々を受け入れるような人であり続けたく、これからはかめのり財団の奨学生として、多様な学生とふれあい、お互いに理解し合い、そして母国の情報を自ら発信していきたいと思います。