【抄録】第4回 課題対応から基盤整備へー民間助成機関はどう対応するか/多文化共生の転換期 連続セミナー2023

(公財)かめのり財団は、「多文化共生の転換期 連続セミナー」の第4回「課題対応から基盤整備へー民間助成機関はどう対応するか」を、2023年12月18日(月)、オンラインで開催しました。阿部 陽一郎氏(中央共同募金会 常務理事・事務局長)、和田 泰一氏(日本民間公益活動連携機構(JANPIA)事業部長)を迎え、川北 秀人氏(IIHOE[人と組織と地球のための国際研究所] 代表)の進行で、お話を伺いました。

 


主催者挨拶 公益財団法人かめのり財団 常務理事 西田 浩子

 

 本連続セミナーでは、転換期にある多文化共生について、これまでの施策や今後求められる取り組みについて、議論してきました。第4回は助成機関のお立場のお二人からお話を伺います。

 

進行 川北 秀人氏(IIHOE[人と組織と地球のための国際研究所] 代表者 兼 ソシオ・マネジメント編集発行人)

 

 多文化共生は転換期にあり、発生した課題に対応するだけでなく、いかに予防的に対応するかが問われる段階に入っています。予防的な対応において重要な役割を果たすのが、助成機関です。本日は、それぞれの機関独自の観点や今後の見通しについて伺います。

 

講義① 和田 泰一氏(日本民間公益活動連携機構(JANPIA)事業部長)

 

 

 人口減少や高齢化の進展等により、行政の既存施策では対応が難しい課題が生まれていることを背景に、2018年、休眠預金等活用法が施行され、休眠預金制度が始まりました。休眠預金等活用制度は、10年以上入出金が確認できない休眠預金等を、民間の公益活動に充てる制度です。日本民間公益活動連携機構(JANPIA)は、休眠預金等活用法における「指定活用団体」を担っています。

 

休眠預金等活用制度は「三層構造」が特徴。指定活用団体であるJANPIAが、資金分配団体が提案する事業企画に対して助成を行う。資金分配団体は、現場で活動する実行団体を公募し、助成を行う。助成の対象となるのは、国や自治体による対応が難しい「制度の狭間」にある社会課題

 

 日本国内の在留外国人は、2013年から2023年の10年間で約1.56倍に増加し、日本の総人口の2.46%になっています(出入国在留管理庁報道発表資料「令和5年6月末現在における在留外国人数について」(令和5年10月13日)。年齢別構成では20~30代という若い層が約半数を占め、日本の人口ピラミッドとは大きく異なります。また、年齢別構成の特徴は国籍によって異なることも注目すべき点で、当事者が抱える課題も国籍や母語・母文化によって違いがあると推察できます。

 

 子ども・若者に目を向けると、公立学校に在籍する外国籍の児童・生徒は10年間で約1.53倍になりました。その中で、日本語指導が必要な児童生徒は約1.67倍に増加し、その多くは小学校に在籍しています。(文部科学省「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査結果について」(令和4年10月18日公表))都道府県によって在籍人数に差があるため、地域によって課題解決の取り組み手法は異なると考えられます。

 

 休眠預金等活用制度では、多文化共生社会づくり領域の複数の事業に助成を行ってきました。実行団体による事業では、例えば、「移民2世3世のキャリア形成に向けた青少年未来創造事業」「大阪市生野区における『多文化共生のまちづくり拠点』の構築事業」「公益活動における海外ルーツ青少年受け入れ体制推進事業」などがあります。

 

 一方、資金分配団体が企画した地域課題に焦点を当てた事業の中で、その地域で多文化共生社会づくりに取り組む実行団体による事業が行われるケースもあります。「多文化多様性の輝く保見団地プロジェクト」は、資金分配団体が企画した中部圏地域の社会課題を解決する事業の中で、多国籍団地特有の課題の解決を目指したプロジェクトが実施された事例です。

 

資金分配団体が企画する事業の中で、実行団体により多文化共生分野の事業が行われる。資金分配団体の事業テーマが多文化共生分野の事業(右)だけでなく、地域課題に焦点を当てた事業の中に多文化共生分野の実行団体が入る例(左)もある(図は発表者作成)

 

 多文化共生社会づくりの課題として、外国人の在住地域が偏在している点があります。制度の狭間で困難を抱える人が増加し、課題は多様化しています。国は在留外国人子女の就学機会を保証する条約を批准し、文科省では特別な教育課程を設けて外国籍の子ども・若者をサポートしようとしてきました。しかし日本語指導が必要な児童生徒は5万人を越えるとともに、約2万人は就学をしていない可能性があるといわれています。日本に滞在しているにも関わらず日本語での教育を受ける機会が十分でなかったり、母語・母文化の習得にも困難を抱える子ども・若者が生まれていることは将来に向けての深刻な課題です。

 

 少子高齢化が急速に進む日本において、今後、地域社会での共生を進め、新たなしくみづくりを在留外国人と共に行うことが必要です。休眠預金等活用制度を通じて助成を行った事業を評価し、知見や教訓を抽出することで、各地への波及と改善につなげる。このサイクルによって、日本が課題先進国から課題解決先進国へと変化していけるよう取り組んでいきたいと思います。

 

在留外国人が増加するものの在住地域に偏りがあり、制度の狭間が拡大し課題が多様化している

 

外国人自身が地域での課題解決の担い手となり、日本人とともに新たなしくみを共創していくことも望まれる。また、休眠預金等活用制度による助成事業を評価し、知見や教訓を抽出することで、課題解決につなげていきたい

 

講義② 阿部 陽一郎氏(中央共同募金会 常務理事・事務局長)

 

 

 中央共同募金会は、全国の都道府県共同募金会とともに「赤い羽根共同募金運動」を推進する団体です。コロナ禍では3年間に渡ってキャンペーンを実施し、緊急的な活動に対して早急に助成を開始しました。この中で三菱財団との協働でスタートしたのが、「外国にルーツがある人々への支援活動応援助成」でした。今年4回目の助成を行い、助成実績は3億4265万円となりました。募集や審査は、三菱財団と当団体が長い丁寧な議論をしながら行っています。

 

 過去4回の助成を振り返り、外国ルーツの方々の支援の重要性を感じています。法整備が不十分で、社会保障制度や教育制度が外国ルーツの方々に行き届いていません。そのため民間非営利団体によるサポートが期待されますが、資金・人的リソースともに不足しており、非営利団体に対する公的支援も足りません。一方で外国ルーツの人々は増加傾向にあり、同時にもともと社会的に弱い層であった外国ルーツの方々の困窮が深刻化しています。

 

「外国ルーツ助成に関する調査研究チーム」(代表:東京大学大学院教育学研究科教授・仁平典宏氏)による調査研究が進行中。2024年には報告会を行う予定

 

 本助成では2022年度の第3回から、外国ルーツの皆さんと地域の市民の交流を促すことを目指して「地域交流プログラム」への助成を設けました。今年実施した第4回には「中間支援・ネットワーク支援プログラム」、「調査プログラム」への助成を新設しました。

 

 並行して、本助成プロジェクトに関する調査研究が進行中です。本調査研究によると、第3回までの応募団体の4割が、生活相談、学習支援・生活支援、日本語学習支援活動を行っていました。一方で、エンパワメント・アドボカシーに関する活動は2割弱、特に母語・母文化保持、権利擁護・エンパワメントの活動は1割未満と低い割合になっています。注目したいのは、支援者を育成する取り組みです。移民当事者や第二世代の若者を支援者とすることを組み込む団体が複数見られています。

 

 支援対象者の属性は大半が子ども・若者です。労働者を対象とする活動は1割未満に留まります。高齢者・障がい者を対象とする活動はほとんどなく、存在自体が見えにくくなっている可能性があります。

 

所得保障、就労支援は生計支援の観点から、母語保持は当事者のアイデンティティや承認の観点から重要。しかし応募実数はまだ少ない。アドボカシー活動の増加にも期待したい

 

 中央共募では、各都道府県の共同募金会にも助成結果を報告しています。これからも、各地域の中で、活動の芽が出てくるように働きかけていきたいと考えています。応募団体の皆さんには、想いだけで活動するのでなく、「何を目標とするのか」「何を行うのか」を具体的に議論していただきたいと思います。同時に、支援相手である外国ルーツの方に留まらず、団体で活動するスタッフに対する人権配慮も重要なポイントです。

 

活動団体には、大切にしてきたこと、取り組んできたことの振り返りをしてほしい。また、見えてきた地域ニーズに対し、何を目指して何を行うかの議論も必要

 

質疑応答

 

 

川北:かめのり財団が2023年に実施した「日本における外国人と福祉のこれまでとこれから 連続セミナー」で示されたように、福祉における外国人対応の強化が重要になってきています。福祉との連携をどのように考えていますか。

 

阿部:外国籍住民に対する生活福祉資金の貸付を機に、困窮する外国人に対してアプローチする取り組みの芽は生まれ始めています。公的制度の急設は難しく、地域のネットワークや助け合いの中で支援を積み重ねていくことが重要です。例えば子ども食堂が、地域でくらす外国ルーツの方にも食の提供をしている例があります。こうした取り組みから、外国人支援のネットワークを可視化するのが、第一歩です。そのうえで、実現可能性のある公的制度の議論につなげることが大事だと考えています。

 

川北:コロナ禍でも出入国した外国人は多く、また、技能実習制度の見直しの影響も考慮すると、在留外国人の人口構成はさらに変化すると思われます。どのように今後を見通していますか。

 

和田:日本語指導を必要とする児童・生徒は、小学校だけで約3万人います。父親が労働者だとすると、単純に考えて約3万人の母親が生活者として地域にいます。家族帯同で来日する方が増えると、生活者としての外国人も地域に増えていきますが、生活者には誰が日本語を教えるのでしょうか。日本語がわからず母文化も尊重されないダブルリミテッドの若者が増える構造を生み出してはならず、助成制度はこの点にも目を向けないといけないと考えています。

 

最後に、阿部氏は「『外国ルーツの人々への支援活動応援助成』について広めていきたい。相談を受け付けているのでメールや電話で連絡してほしい」、和田氏は「現場の方には、資金分配団体となる中間支援組織を促し、ともに必要な取り組みについて日ごろから語り合ってほしい」、川北氏は「助成機関は、転換期の変化を肌で感じているだろう。予防的な取り組みを主導していただきたい」と話しました。

 

抄録執筆:近藤圭子